「今年は、ひな人形出してやれなくてごめんね」
とママはいった。
ママは先月から入院してて、かわりにおばあちゃんが来てるけど、おばあちゃんもパパもすごくいそがしくってもうひなまつりがきてることなんてわすれてたんだ。
「ううん、あたしママが元気なのがいちばんだから。人形なんてなくたっていい」
でもホントはひな人形もほしくて、がっこうで折った折り紙のひな人形をおうちにかざった。
パパもおばあちゃんも、すごいって言ってくれた。
ママ、はやく元気になって、おひなさまいっしょに見よう。
星空が、好きだった。
よく歌で言われる星座や、生まれた月の星座。誰も知らないような星座でさえその由来があり、それにまつわる人々が創り出した御伽話に夢中になっていた。
だけどいつしか大きくなって、私は星空を見上げなくなった。
空にある絵空事じゃなくて、目の前の現実を見るようになった。
だけどふとした時に、いつもの夜空を思い出すときがある。
その時もいつだってあの時と同じ、星空がキラキラと輝いているのだ。
あの時のたった一つの希望は、いつも私たちを見守っている。
初めは、隣にいればそれでいいと思っていた。
キミの笑った姿が見れたらそれで満足だった。
だけど、いつからかそれだけでは足りないと思いはじめてしまった。
だって、キミはボクの物じゃないから。
楽しそうに別の人間のことを話すキミをみる度に、ふとボクの心が陰る。
ホントはそんなキミも丸ごと愛したいけど、許容できない自分がいるし、そんな自分も許せない。
ああ、欲しい。
醜く欲望をさらけ出すボクを許してくれ。
今日はなんだか学校に行きたくなくて、いつもと反対側の電車に揺られてみる。
ああ、やっちゃった。ママや先生になんて言おう……。と後悔しているのも束の間、電車はひたすら遠い街を目指して走る。
コンクリートの溢れる都会を飛び出して、窓の向こうに青い景色が目に入る
「海だ……」
どこまでも広がる雄大な海が、私の心を赦してくれるような気がした。
ボクはひどく疲れていた。
仕事もプライベートもうまくいかず、この世界から逃げ出してしまいそうな衝動を抱え、限界を迎えていた。
……きっと、ボクが居なくなっても誰も困らないだろうな。
そう呟いて、ため息をつきながら下を向いて歩く。もう、どうでもいいや。
ふとしたときに、足元に紙のようなモノがまとわりついた。
誰かの落とし物だろうか。思わず拾うと、それは映画の半券チケットだった。
思わず顔を上げると、目の前には映画館があり、たくさんのポスターが張り巡らされている。
……そういえば、最近は忙しくて映画を見てなかったな。
たまにはこういうのも悪くないな。
ボクはチケットを握りしめ、映画館の入り口へと歩き出した。