noname

Open App
4/4/2024, 8:45:28 AM

小学生の頃、我が家にはおやつは1日1つまでというルールがあった。私は甘いものが好きだったので、いつもそのルールにやきもきしていた。
ある日、父がチョコレートを買ってきた。10個入りのボンボンショコラだ。どうしても1粒じゃ足りなかった私は、駄々を捏ねて父と大喧嘩してしまった。結局部屋にこもった私のもとをたずねた母が持っていたのは、チョコレートだった。

ひとつだけ、ね?

その時に食べたチョコレートは格別に美味しくて、もっと食べたいと思っていたはずなのにすっかり満足してしまった。
そして今、件のチョコレートが目の前にある。1粒摘んで口に入れる。上品な甘さが口の中にひろがる。大人になって、もう甘いものは好きなだけ食べてよくなった。だけどこのチョコレートは、あとひとつ食べるだけにとどめよう。

『あとひとつだけ』

4/1/2024, 1:50:53 PM

ついにドラえもんが開発されたらしい、と法螺を吹いた。そしたらニュースで本当にドラえもんが開発されたと報道があった。
今度は実はニホンオオカミは絶滅していないんだと言ってみた。そしたらニホンオオカミ発見を見出しにした新聞が売られていた。
どうにもおかしいので、今日は隕石が落ちてくる日なんだと言ってみた。途端にけたたましくサイレンが鳴り響く。テレビも、トレンドも、全部隕石衝突の話をしている。空が暗くなった。
やらかした。

びっくりして目が覚めた。いまは4月1日12時1分。
空は晴れ渡っているし、ニホンオオカミは絶滅したし、ドラえもんもいない。
なんだか世界に嘘をつかれた気分だ。

『嘘をついていいのは午前まで』

3/31/2024, 12:49:08 PM

「いま、幸せですか?」
「…宗教ならお断りですよ。」
「やだなぁ違いますよ。ちょっとした雑談じゃないですか。」
「ちょっとした雑談でその切り出し方は珍しいですね。」
「えへへ。」
「別に褒めてませんが。…今なんで拍手したんですか?」
「で、いま幸せですか?」
「無視ですか。譲らないんですねそこは。まあ、幸せですよ。」
「ほほう。それはズバリ何故ですか?私といるからですね?そうですよねいやぁ照れるなぁ。」
「一人で完結しないでください。あと勝手なこと言わないでください。そしてまたなんで拍手したんですか?」
「ちょっと情報量多いですよ。まとめてください。」
「ムカつきますねあなた。私は怒ってもいいんですよ。」
「でも怒らないの優しいですよね。」
「よくそんなこと言えますね。」
「えへへ。」
「だから褒めてません。」
「じゃ、次は貴方のターンですね。雑談を始めてください。」
「雑談ってターン制だったんですね。…では、さっきからちょくちょく拍手してるのは何故ですか?」
「あ、なんかやたら言ってましたね。」
「聞こえてたなら答えてくださいよ。」
「いやいや、言うじゃあないですか。『幸せなら手をたたこう』って。」
「実行してるの貴方だけだと思いますよ。」
「幸せなら態度で示すんですよ?」
「そんな圧力を感じる歌でしたかあれ。」
「まあ、私もいつだって手を叩いている訳じゃあございません。」
「流石にTPOは弁えてますか。」
「それじゃあ貴方といるときずっとやんなきゃいけなくなりますからね。」
「…そういうこと、何でもなく言いますよね。」
「えへへ。」
「…はぁ。」
「あれ?いまなんで拍手したんですか?」
「態度で示したまでです。」

『幸せになった?』

3/30/2024, 2:04:02 PM

何気ないふりをして隣に座った

偶然を装ってケーキを買ってきた

鈍感なふりをして馬鹿な話をたくさんした

あっけらかんを装って悩みを笑い飛ばしてやった

何気ないふりをして後ろにもたれた

偶然を装ってイヤホンをした

鈍感なふりをして背中越しの振動には気づかない

あっけらかんを装って白々しく言ってやるのさ

「どうしたの?」

こうでもしなきゃ、優しい君は吐き出せない



『何気ないふり』

3/10/2024, 3:41:55 PM

20##年2月
今日、殺人事件があったらしい。
なんとも物騒な話だ。しかし、その場にいた探偵による見事な推理で解決したとか。偶然居合わせたらしい友人が興奮気味に言うには、その犯人とやらが近頃世間を騒がせている連続殺人鬼であったのだから驚きだ。
被害者の年齢層も、性別も、犯行方法だってバラバラ。唯一共通しているのは、被害者を異常な執着で精神的に追い詰め、結局は自分の手で命を奪っていること。 ある時は恋人になったものを追いかけ回して、ある時は子どもを閉じ込めて、またある時は自殺を引き止めて無理やり生かした後…ということもあったそうだ。

そんな残酷な犯人は名を『愛』と言うらしい。

20--年8月
最近は変な宗教が流行っていて困る。自殺したというこいつもきっと例のとこのだろう。あったこともない教祖のために身を尽くすなんてバカみたいだ。教祖のために殺人も、自殺だって喜んでしてしまうみたいだから、信仰心というのはやはり恐ろしい。
やつらがこう好き放題しているのが不思議なくらいだが、もしかしたらもうほとんど人間が心酔してるのかもしれない。あの『平和』とかいう教祖に。

全く、1度くらいはこの目で見ておきたいものだ。




『愛と平和とかいう殺人鬼』

Next