「お気に入り」
以前友達からスマートウォッチを貰った。ゲームのコラボデザインのもので、あまりの嬉しさに私は泣いた。
それ以来、毎日そのスマートウォッチをつけている。画面にはゲームキャラクターのイラストとともに時間が表示され、指でスライドすれば脈拍や歩数、睡眠時間なんかも見れる優れもの。スマホと連動させて、音楽を聞いているときなんかはスマートウォッチで音楽を止めたり再生したりもできる。
これまで腕時計すらほとんどつけたことの無かった私にとっては、現代の素晴らしき進歩に感動し、また都会の仕事ができる人になったような全能感もあった。(その腕につけてるのはゲームのキャラクターデザインだけれど)
しかし、1つだけそのスマートウォッチをつける上で問題があった。それは、肌が炎症を起こしてしまう事だった。もともと肌が弱かったのもあり、スマートウォッチのシリコンのベルトとは相性が悪かったようで常に痛痒さがあった。そのため、昼と夜でつける腕を変えていた。
それでも、私は嬉々としてスマートウォッチを腕につけて生活していた。友達からの貰い物であるという事、ゲームの好きなキャラクターがデザインされている事、また私にとっては憧れである、都会の人がつけているスマートウォッチという近未来的装置!たとえ、肌が荒れようが水ぶくれができようが全く気にしていなかった。
そんな私だったが最近になって、友達からもらった物を見返していたところ、あることに気づいた。スマートウォッチを貰った時の箱に手のひらサイズの袋が入っていた。その袋を開けてみると、革製の付け替えバンドだった。
私は腕のスマートウォッチを見た。バンドにもキャラクターのデザインが入っている。しばらく悩んだ末に、スマホでバンドの付け替え方を調べた。スマートウォッチのバンドの付け替えは非常に簡単で裏面のボタンを押しながらバンドを外し、同様にボタンを押しながら嵌め込めば完了とのこと。
私はその場でスマートウォッチのバンドを革製のバンドに交換し、元々ついてたシリコンのバンドを大事に袋に入れた。
結果として、肌の炎症は大幅に改善された。痛みもなく赤く荒れる事もない。時折きつく締めすぎると赤くなることはあったが自分の腕に合わせてきちんとつければ何も問題はなくなった。
スマートウォッチを貰って半年近く、この革製バンドを放置していたことに少しだけ友達に申し訳なさを感じた。それと同時に、こうなる事を予想して付け替えバンドを入れていたという事実に、喜びと共に気恥ずかしさでしばらく顔を覆ってうずくまっていた。
翌日に友達にその事を話した。スマートウォッチを毎日つけていて、炎症を起こしていた事。つい最近になって付け替えバンドの存在に気づき交換したところ驚くほど快適になったこと。私の話を聞いて友達は、それは良かったと笑ってくれた。
人生でこんなに高価なプレゼントを貰ったのは初めてで、その上に友達からの気持ちと思い出が込められているスマートウォッチ。最大の感謝と愛と喜びを感じさせてくれる。
今日も明日もその先も、たとえいつか使えなくなろうとも、この幸福の象徴を身に付けていたい。
「待ってて」
「待っててね」
と言ってどこかへ走っていくあなた
小さなただいまの前のお約束
ほんの少しの寂しさと心配を胸に 信頼の灯りをそっとつけて暖をとる
ささやかな別れとも言えない別れ
不安というには大げさだけれど 私の心は確かに揺れている
小さなあなた 頼りない足で 大きな地球の上に立っている
公園の端であなたはしゃがみ込んだ
まだ箸も持てない不器用な手で何かを探している
私はただ見守る
日々 出来ることが山のように増えていくあなた
今日は初めて 自分の意思で 私から離れた
この間まで 私の腕の中だけが世界の全てであったはずなのに 今のあなたは私と同じ世界の広さを感じてる
もしかしたら 私よりもずっと あなたの世界の方が広いかもしれない
あなたは必死に落ち葉をかけ分けてる
ふふふ 帰ったらまずはお風呂に入らなきゃいけないね
私は待っている
どんぐりでも虫でも泥団子でも葉っぱでも
あなたからのプレゼントを心待ちにして
あなたの成長にほんのちょっとの寂しさを感じながら
あなたが健やかでたくさんの幸福を見つけられるよう
願いながら
小さな冒険からの「ただいま」を待っている
「伝えたい」
ねえママ ぼくはねきょう こうえんで おおきなとりさんが とんでいるのをみたよ
それから ぼくはね すなで おやまを つくったの
そのおやまはね ともだちの ひなちゃんが ふみつけて くずしちゃった
ひなちゃんは まえにえいがかんでみた ごじら みたいにおこって すなばはみんなのものだから おおきいものは つくらないでって いうんだ
すなばがみんなのものなら ぼくだって おやまをつくっていいよね ほかのみんなは すなであそんでなかったんだよ
ひなちゃんは いつもそういうことするの ぼくがあそんでたら いつも おこってくるんだよ
ひなちゃんも ママみたいに やさしいかおしたらいいのにね
ママ きょうのばんごはんは なあに
ぼくはママのごはんぜんぶすきだよ みどりのはっぱはいやだけど ママはりょうりのてんさいだから ぜんぶすき
えへへ
りょうりだけじゃなくてね ぼくはママのぜんぶがいっぱい いーぱい だいすきだよ
だからね しょうらいはね ママはぼくとけっこんするんだよ やくそくね
「この場所で」
何もかもが凍った町に どこか懐かしさを覚えた
触れれば切り裂かれるような氷の花があちこちに咲いている。その冷たく鋭い花の美しさに思わず目を奪われた。
今まで空っぽだった心が震えている。私はこの場所を知っているような気がする。
街の入り口から見える氷の壁に覆われた城
そこに行かなければいけないと思った。ずっと長い間、記憶のない私が探し続けていたもの。それがあの城にあるのだと確信した。
雪に白く染められた家々の間を通り抜け、氷の花だけが咲く広場を抜ける。
小さな町で、あっという間に氷の壁の前までたどり着いた。氷の壁は厚く、城の入り口を頑丈に塞いでいた。
けれど、私には関係ない
氷の壁など無いかのように私は城の入り口をすり抜けた
城のステンドグラスは全て割れ、薄水色の氷で覆われていて、城の中はまるで水の中のように澄んで見えた。
床には一面に透明な水と氷の花が浮かんでいる。
その先を見ると玉座があるべき場所に、異形の姿をした巨大な石像があった。太ったトカゲのような頭に巨大な人間に近い手、ヘビのような尻尾がある。全てが鱗で覆われている。あまりにも精巧な石像だった。
その石像は、床に伏していて閉じた目からは絶えず水が流れていた。城の入り口の氷の壁はこの涙によるものなのかもしれない。
私はしばらくその石像を見ていた。
心がずっと叫んでいた。何に叫んでいるのかは分からない。けれど、私はこの石像を、この異形を
彼を知っている。
ずっと忘れていたこと、いや、ずっと覚えていたこと
この町を、愛しい彼を、約束を、全部覚えていた
石像に近付いて、彼に笑いかけた
「あなたも約束を覚えていてくれたのね」
石像にそっと触れる。形の無かったはずの体が光に包まれるようにして私の姿を見せた。
「ごめんね、私、ずっと昔に死んじゃったの。でも、帰らなきゃって気持ちだけが残って、幽霊になって長いこと彷徨ってたの」
石像は動かない。固く閉じたまぶたを優しく撫でる
「待っててくれてありがとう。私の大好きな花を覚えててくれてありがとう」
そうして、彼のまぶたに顔を近づけてキスをした。すると、絶えず流れていた涙がゆっくりと止まった
バシャバシャと音がして振り返ると、窓や入り口の氷が溶け出して氷の塊が水の中へ落ちていった
窓から明るい光が差し込んできた。月の光か太陽の光か、それはもうどちらでも良かった
彼がもう涙を流さずにいられるのなら、彼がもう苦しまずにいられるなら全部どうだってよかった
「遅くなってごめんなさい」
彼に寄り添うように頬を擦り合わせて静かにつぶやいた
「一緒に眠りましょう。私たちの出会ったこの場所で」
「誰もがみんな」
誰もがみんな 苦しんでいる
悲しいことも 辛いことも 死にたいと泣く夜も経験している
みんな1人
どれだけ友達がいようと 愛する人がいようと 愛されようと
結局ひとはみんな1人
助けてくれる人はいないよ
守ってくれる人はいないよ
誰もがみんな泣いている
誰もがみんな笑っている
君はみんなの中の1人
どうしようもなく1人
誰もがみんな 君の中のひとり