寝不足明けのぼんやりした頭で、何も考えずに着てしまったセーターは、時間を追うごとに自己主張を始めた。
まず、背中をつつかれた。
(分かった、分かったから)
座席のシートが背中に当たって、自分の浅はかさを呪う。チクチク攻撃は背中に一面に広がった。スマホを見ようと俯いたら、首と顎をやられた。
(あぁ、もう!)
今すぐ脱ぎたい。途中で代わりのものを買って着替えようかとすら思う。
(いや、ダメダメ。もうすぐクリスマス。大出費が控えてる)
「おはよ。あれ珍し。セーター苦手って言ってなかった?」
「うん。寝ぼけてて……」
「ふーん。でも、似合ってる」
ニヤニヤしてるのバレないかな。
単純すぎてイヤんなるけど、そんなこと言ってもらえるなら、チクチクセーターも悪くない。
眠りたい
ひたひたと頭から浸かるような
黒いものに飲み込まれていくような
あの感覚を早く味わいたいのに
この人たちはどうして一緒にいるのだろうと
ずっと思っていた
一緒にいることの意味とは
そんなものしか見てこなかったから
夢も希望も抱けないんだよ
【冬になったら】
冬眠したいってずっと前は思ってた
穴ぐらでぬくぬく丸まって
誰にも邪魔されない生活
でも今は違う
乾いて冷たい空気に青い空
何でもクリアに見える毎日
何にでもなれる気がするよ
【はなればなれ】
「おはよう」
右隣のコに挨拶する。もう何回目の朝だろう。あと何回「おはよう」が言えるのだろう。
みんなでいる時から、右隣のコとはよく話した。お喋りなそのコは、いつも何かしら呟いていて、他のコに「うるさい」って言われることもしょっちゅうだった。でも「喋らないとムズムズするんだ」と言ってやめなかった。
「うーん、おはよう。あれ、右にいたコ、いなくなっちゃった」
右隣のコが寝ている暗いうちに、その右にいたコはいなくなった。
「うん、夜のうちにね」
「なんか言ってた?」
「なんにも」
「冷たいなぁ。起こしてくれてもよかったと思わない?」
「いきなりだったし。まさか夜のうちになんて思わないし」
「そっかー」
「うん」
本当は「バイバイ、またね」って言ってくれたんだ。でもそれを言ったらきっと羨ましがって、ずっと「いいな〜」って言われそうだから、黙ってた。
みんな、はなればなれになってどこに行くのか本当は知らなかったし、でも「またね」なんてないことは知ってた。
「とうとう二人きりになっちゃったね」
「たくさんいたのにね」
「まあしょうがないよ」
「どっちが先かな」
「一緒に……とかないかな」
「一緒! ならいいねえ」