・1『君の奏でる音楽』
駅構内でストリートピアノを弾いている男性がいた。
かなり上手いひとなんだろう。たぶん。
道行く人が足を止めて聞いている。
ピアノのこと、というかクラシックもさっぱりな自分でも立ちどまってしまった。
【続く】
・5『麦わら帽子』
オーディションからしばらく経ってすっかり夏になり、インターンも始まって忙しくしていた。
大学でミワ先輩と久しぶりに会ってオーディションの話題になった
「そういえばジュリアさんがグランプリじゃなかったんですね」
「なんでだろうね?父親の力があっても無理だったのかな、グランプリの子の方が大物の子だったとか。今はアパレルの仕事しつつモデルやってるみたいだよ。モデルって言ってもインスタで洋服の紹介動画とかだけど」
そう言ってミワ先輩が見せてくれた動画のジュリアさんは透け感のある紺のワンピースにお洒落な帽子を被っていた。
「この麦わら帽子かわいい」と私が言うと
「カンカン帽?これ27万だって」とミワ先輩が教えてくれた。
すご……知らない世界だ。
【終わり】
・4『終点』
新人発掘オーディションが終わって
結果はというと……
私とミワ先輩は3次審査まで進んでそこで終わった。20人にまで絞られて最終選考5人にミワ先輩の友達のジュリアさんがいて……
私は最後まで見ずに途中で帰った。バイトもあったので。
くたびれた。
帰宅途中の電車の中でスマホでオーディション結果を検索するとグランプリはジュリアさんじゃなかった。どゆこと?
ジュリアさんの名前や顔は出てたけど3位以内でもなかった。八百長は?
スマホを握りしめて寝てしまい、起きたら終点だった。
終点で大丈夫。兄に迎えに来てもらおう。
長い1日だった。
【続く】
・3『上手くいかなくたっていい』
ミワは思った。
金持ちの考える事は違うな、と。
ジュリアは一応友達だ。生活レベルが違いすぎて彼女のナチュラルに発せられた言葉に傷つくこともあったが鼻にかけるでもなく、明るい性格は好感が持てた。
ただ、アイドルや女優になれる資質があるかというと
正直疑問だ。容姿は至って普通なのだ。ただ見た目にお金をかけているなあ、とは思う。
勘違いさせてしまった周りのせいも多いにある。
自分を客観的に見ることは難しい。自戒をこめて。
オーディションに誘われた時は驚いた。父親の口利きで優勝がほぼ決まってるなんて。
でも八百長オーディションに参加するなんて惨めな気がする……でも謝礼は魅力的。
インスタの案件だと思うことにして結局は受けることにした。
ジュリアには
「ウォーキングとかあるけど上手くいかなくたっていいの!堂々と歩いてればミワはカッコいいから!」
と言われた。
【続く】
・2『蝶よ花よ』
ジュリアは思う。
所謂お嬢様なのだろうと自分でもわかってる。
国会議員の父はやりたいことはなんでもやらせてくれたし
母はとにかく「自慢の娘」と言って私を着飾らせるのが好きだ。
周りの大人も父の顔色が大事だからめちゃくちゃ可愛がる。
今度のオーディションだって八百長だ。
でもランウェイとボイトレ、ダンスレッスン、スピーチはコーチを付けてトレーニングを重ねた。
体重も絞って、見せ方もメイクも勉強した。
私はこの社会を変えたいと思う。
グランプリから芸能界への進出はその足がかり。
私に敵う素人はいない、確信してる。
【続く】