山百合

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5/29/2024, 11:25:13 AM

・7・8

なにか木に話かけられた気がする

古い町並と濁流し氾濫寸前の川に気を取られて

何を言っているのかはよくわからなかった

私を飲み込んだ木から服を脱ぐように這い出ると

自分のスーツの左腕の袖がなかった

『半袖』だ

左腕の感覚がおかしい


『ごめんね』

今度ははっきり聞こえた

右手で近くの青い実をもぎ取ろうとした

私はなぜそんなことを?
木はなぜ謝るのだろう?

【続く】

5/27/2024, 1:31:13 PM

・6

『天国と地獄』

養分となって赤い実をつけるか

私の一部となって生き続けるか

私は男に問うことにした

未来から来たこの男に

【続く】

5/26/2024, 2:06:22 PM

・5

『月に願いを』

私がまだ若葉を付けていた頃

人々は戦地に赴いていた

皆が飢えていた

私の根本にはいくつもの死が重なっていた

私の青い実は徐々に赤く熟れてゆく

月を見上げこれ以上、人々の死を養分にしなくてすむように祈った

【続く】

5/25/2024, 10:19:40 AM

・4

昭和53年のS県の河川敷に着いた時
雨が降っていた

『降り止まない雨』

川は濁流となり勢いを増していた
肝心の【木】は私の知る姿と大きさも何も変わってないように見えた

ただ青い実を付けていた

【続く】

5/24/2024, 2:09:54 PM

・3

私は自身が育てていた
【木】に飲み込まれた

その【木】は低木で人間一人を飲み込める力も容量もあったということだ

新薬開発の為の研究材料であった
意思と行動力を持つそれの
幹の中に入り

『あの頃の私へ』

私は木の中から
昭和53年にまで遡った

その【木】が生まれた時代まで

【続く】

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