その瞬間私の高校生活は終わった。
同じクラスになった時からいいなと思っていた。
まわりがふざけけてもちゃんと掃除をしているところとか、字がきれいなところとか、
意外と自分の意見をはっきり言えるところとか。
自分とどうにかなるなんて全く期待してないわけじゃないけど、自分から行動起こせるほど前向きな性格じゃないから、眺めているだけで毎日幸せだったんだ。本当に。
午後のちょうど眠くなる時間、たまたま自習になって、教材の動画を見て感想を書くことになった。たいして面白い内容ではないその映像を見ながら、わたしはふと斜め前を見つめた。
真面目に紙面に向かいながら、でもちょっと眠そうにも見えて、白い夏服が窓から射す光に反射して綺麗だった。思わず紙のはしっこに、名前を書いてしまった。
チャイムが鳴り、感想文を提出して我に返った時には遅かった。回収係であるクラス一口の軽い陽キャ男子は、その理性が働くことなくクラス中に言いふらした。
ざわざわとクラスが揺れた。
公開処刑だとか、迷惑だと誰かが言い、くすくすと笑い声が聞こえ始めた時だった。
「何が面白かった?」
落ち着いてて芯の通った声がして、教室が静かになった。
「どこが、面白かった?」
自分に問われてるのだと気づいた陽キャ男子はもごもごと何かを言っている。
「寄ってたかって人のことを馬鹿にしたり笑ってるのは見ていて気持ちのいいものじゃないよ。」
「それに人の心を勝手に決めつけないでほしい。誰が迷惑だなんて言った?むしろ、」
うれしい、と口が動いた時には、さっきまで怒りに満ちていた顔は真っ赤になっていた。
怒涛の展開に呆気にとられてるクラスの人達をちらりと見て、私の好きな人は恥ずかしそうに笑って言った。
「皆見てるし、場所変えて話そうよ。とりあえず、」
ここではないどこかへ。
※性別指定しません。
最近お気に入りのカフェの、あの笑顔が素敵な店員さんは、地元に戻るために辞めてしまったらしい。
残念に思う一方で、だからといってSNSを聞いたりするような仲ではなかったと思う。
誰とでもつながれるようになった世界で、小さな別れを大切にできなくなってきた。
あの店員さんにはもう二度と会えないだろう。
草木を育てるために必要なのは基本的に、水・土・光である。
逆にそれさえあれば、意外と良い感じに花を咲かせるものだ。
分かっているんだけど。
窓に置かれた茶色い固まりを見て私はため息をついた。比較的お手入れが簡単だと聞いていたサボテンをどうしてここまで枯らすことが出来るのか。
どうも自分には植物を育てる才能は皆無らしい。家と職場とを行き来する毎日の中で、少しでも心に余裕を持ちたいという思いで100均で購入した手のひらサイズのサボテンは、その一生を全うすることなかった。小学校で育てた朝顔も、お小遣いで買ったミニトマトも、彼氏に家庭的な自分をアピールするために花壇からこだわったパンジーやマリーゴールドやアイビーも、綺麗な姿を人の目に映すという喜びを謳歌することもなく曖昧に朽ちていった。
そういえば、最近入ってきた新人に園芸が趣味だという男の子がいた。
男が園芸が趣味なんていかにもなよなよしいと思ったが、ふとそのことを思い出し会社で何気なく聞いてみた。
「花育てるの趣味って言ってたよね?男でそれって珍しいけどコツってあるの?」
「先輩も花育ててるんですか?」
「ちょっとね。でもいつも枯らしてて。」
「花も生き物ですからね。」
「知ってるよそんなこと。でも枯れるんだよ。」
「ふふ、先輩分かってなさそう」
思わぬ言われようをされて面食らった私は動揺した。
この子はこんなこと言うタイプだったっけ?花育ててるくせに人には厳しいの?
「花は生きてるんですよ、そして僕も」
「すべてが型にはまってるわけではないんですよ。生きてるんですから皆それぞれ違いますし意思を持っています。」
「“植物”とうカテゴリーではなく、花も生きてるんだということを意識してお世話をしてみては?」
「ふうん。」
意外と毒を吐く新人だ。その毒を真正面から浴びてしまった私はふらふらとその場を離れた。花も後輩も生きてることなんて知っている。なのにあの言葉は大衆の場で名指しをされたようにぎくりとした。
その帰り道、手元のビニール袋には100均で購入したサボテンが入っている。
このサボテンはどんな性格をしているんだろうか。今度こそ一緒に暮らせるだろうか。花が生きているということを理解することができるだろうか。
自分の中で知らず知らずのうちに形成されたカテゴリーを今更なくすのは、時間がかかるかもしれない。それでも、変わりたいと思える自分で良かったと思う。
とりあえず、あの後輩は繊細なんだなと思った