わかっていた。わかっていたはずだった。
貴方は私の横で、静かに寝息を立ててるはずなのに。起きたら、暖かい腕で私を包み込んでくれるはずなのに。
「おはよう」と、微笑んでくれるはずなのに。
今、私の横には、冷たくなった先生がいる。
わかっていたはずなのに。
私が涙で頬を濡らしても、先生はもう慰めてはくれない。涙を拭ってはくれない。
私を心配する声も、もう聞けない。
「先生…?」
行かないでと、願ったのに
LaLaLa GoodBye
さようなら。あの日が来るまで さようなら。
君が去るまでさようなら。君が来るまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
呑気な鼻歌歌ってろ。呑気に空でも見上げてろ。
思い出すまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
君を見るまでさようなら。
____この前、一人で家に帰ってたときね。遠くから、十歳くらいかな?悲鳴が聞こえてきたの。
びっくりしちゃって、急いで駆けつけたんだけど…。
周りに二人くらいの男の人がいてね、その子のこと縛り上げてたの。
たぶん、売ろうとしてたんだね。
顔も整ってたし、親もいないみたいだったから。
なんとか助けてあげたんだけど、どこかに走って行っちゃって。
…その子、そのあとすぐに自殺したらしくてね。
「ほんとさ、酷い話だよね。ね、知俊くん。」
蝉の鳴く、青い空の下。
紀久代さんは、頬杖をついて僕を見た。
その冷たい、突き放すような表情に、酷く息を詰まらせたことを、よく覚えている。
快晴の追憶
私ね、花を渡すときは一輪が一番素敵だと思うの。だって、なんか特別な感じがしない?
もちろん花束もいいんだけどね。色はなんでもいいよ。
もらえるだけでも嬉しいしね。
……いつかもらえたらいいんだけどなぁ。
「大丈夫。もう大丈夫だよ。」
一輪のコスモス
秋恋
「難しいなぁ。」
紀久代は「秋恋」と右端に書かれた巻物を、ポイっと放り投げた。
今日作る話のテーマは秋の恋。先生から出されたお題だ。
「なによ、秋の恋って。秋にしたって冬にしたって恋は恋で変わらないし。だいたいそんな言葉聞いたことないし!」
ばたん、と畳の上に身を投げる。大の字に寝そべれば見慣れた天井が視界に入った。
ぼーっと木目を眺めていると「できたかー?」と縁側の方から先生の声が聞こえてきた。
あぁ、まずい。出来てないと知られたらまたゲンコツだ。
「よいしょ」と体を起こし、また机に向き合う。
紀久代は考えた。
「先生、焼き芋好きかなー」
彼が焼き芋を頬張る姿を頭の中で思い描き、くすりと笑う。すると、不思議と心が弾んだ。
「さーてと、どんな話にしようかなぁ。」