Eiraku

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秋恋

「難しいなぁ。」

紀久代は「秋恋」と右端に書かれた巻物を、ポイっと放り投げた。
今日作る話のテーマは秋の恋。先生から出されたお題だ。

「なによ、秋の恋って。秋にしたって冬にしたって恋は恋で変わらないし。だいたいそんな言葉聞いたことないし!」

ばたん、と畳の上に身を投げる。大の字に寝そべれば見慣れた天井が視界に入った。
ぼーっと木目を眺めていると「できたかー?」と縁側の方から先生の声が聞こえてきた。
あぁ、まずい。出来てないと知られたらまたゲンコツだ。
「よいしょ」と体を起こし、また机に向き合う。
紀久代は考えた。

「先生、焼き芋好きかなー」

彼が焼き芋を頬張る姿を頭の中で思い描き、くすりと笑う。すると、不思議と心が弾んだ。

「さーてと、どんな話にしようかなぁ。」







10/9/2025, 3:37:05 PM