森の匂い。
木々がお生い茂り、
辺りは緑で埋め尽くされていた。
人は私しかいないのでは無いか。
毎日そう思ってしまう。
ずっと言い聞かせるのだ。
もっと東か西の方では
人がわんさかいて、
街も栄えていると。
希望を失ってしまっては
生きる意味すら失ってしまう。
歩き続けてもずっと森。
木ばかりなのに
食べ物は見つけてしまう。
雨も定期的に降ってしまう。
生きてしまう。
そこら辺にいる木に問いかける。
好きな食べ物は何?
鳥ってどんな生き物だと思う?
花ってさ、君らと何か違うところあった?
当然何も返ってはこない。
歩いて歩いて、
たどり着いた世界の果てには
食べ物が無くて、雨も降らない。
ただただ
空が青いだけだった。
"Good Midnight!"
これでもう
生きることすら
できなくなっちゃったなぁ。
誰もいない静かな終わり。
私はどこか懐かしい風景と
見たことの無い動植物に囲まれながら
静かに目を瞑った。
ちょっぴり新鮮な
新しい空気。
心の旅路に
猫は共についてきてくれる。
知る人が誰もいなくても
私はひとりじゃない。
猫はずっとついてくる。
私が買い物に行く時も、
私が魔法を使う時も。
私の魔法を
猫だけは好きだと言ってくれた。
きらきらと
星を出すだけ。
チクチクして痛いし、
空にも浮かばなくて
落ちていくばかり。
それでも本当に綺麗に煌めいている。
居心地の悪いこの世界で
猫だけが私の居場所。
"Good Midnight!"
新しい街。
新しい人が
私と猫を迎え入れる。
役立たずの
この魔法でも。
分厚い氷がそこら中に広がる世界。
思ったよりも寒くはないが、
他より寒く、
まるで凍てつく鏡。
なんせこんな氷しかないとこだから、
教育を十分に受けてない。
この比喩とやらが
正しい使い方なのか、
ここの誰も知りやしないし
気にもしない。
氷売りの仕事は朝早い。
どの氷をどの分だけ
取って持っていくか、
あらかじめ決まっている。
ツルハシをテンポよく
同じ力の強さで振り下ろし、
取れた氷に紐を括り付け
持っていく。
荷車に乗せて、
何人かで押して運ぶ。
氷売り仲間はみんな
こんな寒い中でも平気だった。
けど、
私は冷たいのも寒いのも
何故か大丈夫じゃなかった。
毎日手袋を5枚重ね、
コートを重ね着して作業していた。
"Good Midnight!"
力仕事だけに見えて
こんな所にも
才能って、技術って、
いるんだなぁって。
私はただ
凍てつく鏡のように
そっと輪から外れていった。
雪、雪、雪。
最高気温は5℃。
最低気温は0℃。
外に出た瞬間から
風と空気で一気に冷やされる。
肺は冷たい空気を吸い込み
激しく咳き込むことを要求する。
鼻は冷たく赤い。
手足は刺すように寒い。
いつしか白い雪が
空から降り注ぎ始めた。
傘を持っていなかった私は
頭に雪を乗せて帰った。
"Good Midnight!"
寒さで全てが包み込まれた世界で、
街灯で照らされる
雪明かりの夜に
真っ白なヴェールを。
真っ暗な部屋。
クリスマスだというのに
ツリーすらない
しーんとした静かな部屋。
プレゼントなんかもちろん無くて
いい子って褒められたのも
随分昔のことで。
服なんか、髪なんかお構い無しに
床に寝っ転がる。
冷たくて硬い。
でも私には暖かく思えた。
外は寒い。
私も冷たくて寒い。
人肌が恋しくなってしまうのも
仕方がない事。
コイビトなんか
私に出来るはずもなく
クリスマスが終わっていく。
駅では別れを惜しむカップル。
バス停では抱き合い、
じゃあねと手を振るカップル。
こんなクソ寒いってのに
私以外はみんな暖かそうで
ずるいなあって。
重い体をあげて
冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
ぷしゅっ。
缶を開ける音は
いつ聞いてもいい音。
しゅわしゅわと炭酸の音が
口いっぱいに広がる。
やっぱぼっちはビールでしょ。
空気に乾杯して
私は幸せでいっぱいになる。
胃にビールが注がれて
満たされていく。
何もかも楽しく思えるくらい、
嫌なこと全部忘れてしまうくらい。
"Good Midnight!"
いつの間にか外も真っ暗。
酔いが覚めて
また苦しい独りになった。
遠い目で
外の暗い青色の空を眺める。
来年の今日こそは
幸せになれますようにと
祈りを捧げて。