パラレルワールド。
銀河の数ほどある
パラレルワールドを
1つにまとめて管理してるのがここ。
「ドリームゲート」。
私はドリームゲートの番人で
主にパラレルワールドを管理している。
たまに時間も管理するけど、
時を結ぶリボンは
解けやすくて
千切れやすくて
細かったり太かったりするし、
パラレルワールドが多すぎて
時間までは管理し切れないから
あらゆるパラレルワールドに
時間管理局がある。
でもパラレルワールドを管理するのは
ここだけ。
パラレルワールドを結ぶのは
透明なガラスパイプで、
先代から受け継いで1200年ほど
私はずっとこの景色を見ていた。
毎日数通だけ
パイプから手紙が来る。
それは特別な案内をされた
特別な方だけが送れる手紙。
どの世界に行きたいのかや、
案内人の名前を書いた手紙を送ることで、
私はその方がいる世界とは
違う並行世界へ
ゲートをくぐって
限られた時間のみ移動を許可する。
同伴者は案内人、もしくは私自身。
もしこの選択をしていたら…という
ほぼ隣の世界へ行く人もいれば、
もしこの人と出会わなかったら…という
少し離れた世界へ行く人もいる。
限られた時間しか居られないし、
並行世界で
その方がいる世界とは
違う世界なので
世界は影響を受けない。
おまけにその並行世界側は
起きた出来事を夢だと認識する。
だからドリームゲート。
私はなんだかんだ
番人という役割にやりがいを感じている。
"Good Midnight!"
1200年ほど前までは
私にも私の世界があったけれど、
今はもう人ならざるもの。
その世界がどんな世界だったか
誰とどんな関わりがあったか
もうとうの昔に忘れてしまった。
小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ユニコーンの角が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓に飾っておいたら
次の日また小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ロバの耳が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓でユニコーンの後ろに飾っておいたら
また次の日小包が届いた。
中身は
小さな小さな
手のひらの贈り物。
ペガサスの羽根が
少し欠けていて、
でも足はしっかりとしていて、
斜めになったりはしない。
出窓でユニコーンとロバの後ろに飾っていた。
深夜1時半。
月の光が出窓を照らす中、
ユニコーンが先頭でロバ、ペガサス、と
3匹は外へ飛び出した。
空へ向かって駆けていくその足元は
七色に輝いていて、
足取りは音楽に乗るかのように
軽やかだった。
"Good Midnight!"
3匹が届けたのは
自分たちではなく
ささやかな、
小さな小さな幸せだったのだと
3匹は口を揃えて言いました。
いつもの峠。
冬の朝は霧が出てて
空気は氷みたい。
群れで行動しなきゃなのに
私はちょっと浮いてて
どこか居づらさを感じてる。
あんまり群れで一緒に行動したくなくて
時々早起きや夜更かしをして
抜け出してる。
私が作る一人の時間は
私にとってすごく大切で
私が私である為に
必要な時間だと思ってる。
でも今日は長に怒られちゃった。
ネブラスオオカミには
知能の足りない者もいる中、
お前は知能が十分あるんだ。
ごく一部の者しか知能は無いんだぞ。
無自覚なやつとか、
完全に野生のやつもいるんだ。って。
ヒトになれる者も
限られてるって。
私って本当に群れでやっていかなきゃ
いけないのかな。
考えることをやめて
透き通る水を飲んだ。
"Good Midnight!"
夜風に吹かれながら思う。
もう大人にならなきゃって
心の片隅で
割り切ってしまたら
よかったのにな。
明日が嫌だ。
ただちょっとしたことだけど、
それだけで眠りたくない理由になる。
緊張や不安、心配。
毎日感じるはずなのに
明日はひと際感じる。
鼓動はもう気づいた瞬間から
ずっと跳ねたまま。
しんどい。
大丈夫。
いっぱい泣いて
いっぱい曲を聴いて
いっぱいどこかへ行こう。
明日を迎えられるまで
ずっと好きなことをしていよう。
私の機嫌は私にしか取れないのだから。
寒い所では
針葉樹林が雪を覆っていた。
見渡す限りずっと木。
木曜日が迫ってきているみたいで
本当に逃げ出したい。
なんで私は
嫌なことを乗り越えても
また嫌なことを乗り越えなきゃ
いけないんだろう。
毎日ってなんで止まってくれないんだろう。
頭を抱える私は
ぽつりと呟いた。
あーあ、SF小説読みたいなあ。
ここじゃないどこかの話で
主人公は活き活きしてたり、
復讐に燃えてたり、
チート能力を手に入れてたり、
ヴィラン側だったり。
仲間も色々で
未来永劫信頼できる熱い友情だったり、
全部演技の裏切り者だったり。
感情移入すると
本はVRより楽しい。
1冊、2冊と読むうちに
明日はどんどん迫ってくる。
それでも、
数え切れない針葉樹に囲まれていても。
私は雪をかき集め
かまくらを作って閉じこもる。
私のやる気を私が出すために。
"Good Midnight!"
ここに居よう。
ここに居れるよう、
私は全力を尽くすから。
雪の静寂が
私を包んで温めるまで。
君が見た夢はきっと
こんな夢だった。
不自然なほど真っ白でまっさらで
綺麗な教室、
座ってる人はみんな10代後半くらいで
座高も同じ。
じっと前だけを向いていて
喋り声なんか聞こえない。
でもその中で1人だけ
座高がちょっと低くて、
真紫の服を着ていて、
鼻歌を歌いながら
教室を見渡していた。
言わば、はみ出し者。
でも誰も咎めなかった。
いや、むしろ羨ましく思っていた。
好きな色の服を着たいし、
自由に話したい。
特に意味がなくても
目線を動かしたい。
ゲージから出たがる犬のように
みんなは自由を求めていた。
ある一人の子が
緑の服を取り出し着た。
また違う子も色の着いた服を、
そのまた違う子は後ろを向いてお喋りを、
教室内は一気に活気づいた。
突然ガラガラっと大きな音を立て
教室のドアが開いたかと思えば、
先生らしき人が入ってきて
はみ出し者のあの子を怒った。
みんなできてるのに、
どうしてあなたはできないの。
そんなんじゃ、社会でやっていけないわよ。
誰も助けようとはしなかった。
自分ははみ出し者じゃないって
言い聞かせていた。
日が変わると
はみ出し者のあの子は
座高がみんなと同じ高さになっていた。
椅子にクッションを敷いたのだ。
服もみんなと同じ真っ白に、
真っ直ぐ前を向いて
口を開くことは無かった。
みんなは次々と服を白に変えだし、
口を閉ざし、前を向いた。
誰かがはみ出していないと
誰もはみ出せなくて、
誰かが元に戻ると
誰もが元に戻る。
そんな、
ちょっと気分の悪い夢。
"Good Midnight!"
同調圧力というやつ。
周りがやってるから
じゃあ自分も…。
そんなつまらない圧力。