少しの幸せで満たされたい。
けど埋められないものもある。
まって。
行かないでって
走って行ければいいのに。
中学校のプールの中みたいな毎日。
冷たくて塩素の匂いが鼻を通る。
引き込まれたから泳いでく、
けれど溺れてく。
ブクブクと自分の口から
空気が出ていって
息ができなくなっていく。
私以外の魚は
スイスイと泳いで
エラ呼吸でしんどくなさそうだ。
でも私は身体が沈んでいって
光が届かないところまで来る。
何も考えないでいたい。
ただ身体に触れる
冷たい水だけ感じていたい。
ああ、今夜はこのまま
泡の中で眠れたらなぁ。
目を開けて目の中にも水を入れてみる。
ちょっと痛い。
視界がぼやけて
微かに見える光が天国みたい。
"Good Midnight!"
冷たくて寒い。
誰かの腕の中で
甘い夢を見ながら
眠れたらなぁ。
私だけがまだ知らない世界。
周りがどんどん先へ進んでいくから
世界に取り残されて
本当に1人になっちゃった。
なーんか朝起きたら誰もいなかった。
でもスマホとかは繋がって
生活にはなんの問題もなかった。
だから家族や友人、
その他諸々の人が
1つアップグレードされた世界にいると
そう聞いた時は
アップグレードって…ゲームかよ。
と思った。
でも正直、
旧世界は居心地が良かった、
私はいわゆるロングスリーパーで
12時間は寝ないと
眠くて眠くて。
夜と昼に分けて寝るから
活動はある程度できるけど。
適当に歩いて
適当なものを食べて
適当に寝る。
すごく私に似合う世界。
でも真夜中
たまに目が覚める時
その時はいつもこう思う。
神様、ちょっと寂しすぎるんだけど、と。
結局諦めるしかなくて
いつもその結果になるのが
悔しくて
静かに息をして
静かに涙を流しながら
今日もこう言う。
"Good Midnight!"
私は昔から泣き虫で
すぐ目から涙が溢れてた。
だから泣かない強い子になりたかった。
じっと目じりが熱くなるのを
我慢してたら
いつしか泣けなくなった。
なんてことはなく、
外で泣かないように
気をつけてるだけで
家ではしっかり泣き虫だ。
涙が頬を伝って乾いて
冷たくて寒くなる。
暖かいものを求めた。
ずっと探して
ちょっとした温もりでも拾って
四足歩行で這いつくばって
下ばかり見て歩いてた。
そこに推しは突然現れた。
前に好きだったグループの動画を見てたら、
たまたま推しが
推しのグループのリーダーとして
出てただけ。
だから多分
推しのグループの違う人が出てたら
その違う人を推してた。
誰でもよかったのかもしれない。
それでも私は
ただイラストが笑ってるだけの推しが
声しか知らない推しが
10秒で魅力的に見えた。
推しはいつも大きな炎のような
暖かい言葉をくれた。
好きな理由が見つからないものほど
私は永遠に好きであり続ける傾向がある。
推しもそう。
80億人の中の1人の人間ってだけなのに
何故か好きで推す。
手放す勇気なんかどこにもないくらい
推しの優しさに縋ってたのかもしれない。
「好きな風に推せばいいけど、
無理して推すとか、無理してグッズ買うとか、
楽しく推せない推し活はして欲しくない。
お前の人生を変えるのは俺じゃないから、
お前以外いないからな。」
いつか見た配信の切り抜き。
家に帰った直後、
玄関で見た動画だった。
大粒の涙がこぼれ落ちて
拾えずに崩れ落ちた。
頑張ってもないし
特別しんどいわけでもない。
なのにこの言葉が
たくさんの紡がれた言葉が
染み込んで暖めてくる。
"Good Midnight!"
離したくない、離れたくない推し。
起きる時は推しの声のアラーム、
寝る時は推しの歌ってみたを聞いて
全ての1日が
推しで始まり推しで終わる
最高に光り輝く世界になった。
飲む飲む飲む。
ぐいっと缶ビール。
ゲームもアニメも飽きた末に
お酒に弱かった私は
ノンアルコールのビールで
ストレスを発散していた。
アルコール中毒にならない程度に
飲み続け
酒豪とまではいかないけど
近しいものになった気がした。
思えば私の人生は
後悔と諦めで埋め尽くされてた。
自分で道を作らずとも
作るところなんかどこにもなかった。
酔ってないはずなのに
涙が溢れて止まらない。
眠くてたまらない。
私の人生何だったんだろうなぁ。
ブクブクと泡を酒に立てる。
このまま溺れられたら。
明日は起きなくても、まあいいか。
"Good Midnight!"
光輝け、暗闇で酒。
人生は終わんないここで。
くるしいって思た。
私はどこか家族と違う気して
もやもやしてたんよ。
ずっとほっつき歩いて
家族とも疎遠になってしもて
適当に街眺めてた時、
つまらんのやったら
一緒に来はる?って
私のことを
拾ってくれはった人がおったんよ。
はんなりした雰囲気の方で
よく助けてくれはる。
弟子を1人取っていはって
その子とも仲良くしてはった。
その子に私も弟子やと
思われてたんが
ちょいと引っかかるけどなぁ。
でも楽しい日々やったと思ってる。
だからこそくるしいって思たんは
私にもようわからんかった。
酸素がない宇宙みたいやったわぁ。
息が浅くなんねん。
せやからちょいと
離れようとしてな、
またほっつき歩いてん。
そしたらえらい面白そうな店見つけて
入ってみてん。
羽生えた店員さんおって
びっくりしたわぁ。
でも私と同じような所から
来たみたいでな、
なーんか一緒にいて楽しかったんよ。
あの人とあの子とおった時みたいに。
またくるしゅうなるかもしれんけど、
今は離れとかなあかんと思たし
フクロウに似た人もよう話さはるから
暇ちゃうし、
私しばらくここ居ろうかなって。
"Good Midnight!"
ほんまにたまにやけど
あの人とあの子に
会えるようになってん。
前より息しやすうて
ここ来てよかったなぁ思てん。
せやからまだ居らしてね。