5…4…3…2…1…。
ハッピーニューイヤーという声が世の中を包み込む。
そんなこと私には関係ないけど。
中くらいの大きさで
とても分厚い漫画を寝っ転がりながら読み、
内容を付箋に書き
表紙に貼る。
本を読んだ時はいつもそうだ。
1部の本を除いて、
その本がどんな本だったか見返す時間が
惜しくてたまらない。
お陰で本棚は付箋だらけだが、
別に構わない。
大切なのは
過去にこの本を読んだことがあるという事実と、
どんな内容だったかだけだ。
私にはそれ以外必要ない。
本なんてただの紙切れ。
写真なんてゴミが増えるだけ。
思い出なんか明日には忘れてる。
冷たい人間だと言われる人も、
優しい人だと言われる人も、
羨む人も、
恨む人も、
全部この夜景の中にいる。
まとめてしまえば皆同じなのだ。
新しい本を読もうと
新巻の本棚へ手を伸ばす。
「世界が青くなったら」
あれ。
この本の名前見たことある。
しかしそこに付箋は無い。
おかしいな。
何回も読みたいと思った本は付箋を貼っていない。
だがこの本は特にそうは思わなかったはずだ。
本棚から出し、
少し考えて隣の本棚を探してみた。
あった。
これはつい3ヶ月ほど前に読んだ本で、
何回も読みたいと思ったが、
なんとなく付箋を貼って戻したんだった。
真横にはそのシリーズの新巻が置かれていた。
表紙が同じ青色だから
間違えたのだろう。
そういえばどんな内容だっけと、
付箋に目をやる。
"Good Midnight!"
ああ。
そうだった。
この本の内容は
付箋には書き表せないものなんだった。
ただ
3ヶ月前も、
今も、
この言葉が1番ピッタリなのだと
満月を細目で眺めた。
私は私が何を考えてるのか分からない。
よく
翼が生えても飛べなかったら要らないよな
とか、
水の中でも呼吸できる両生人間になったら
泳ぎを極めてポイント・ネモまで行ってみたいな
とか、
どうでもいいし、
不可能な事ばかり考えていて
意味がわからない。
今自分は何したいんだろう。
どうしたいんだろう。
あの子とは仲がいいけど、
もしかしたら私は
あの子が嫌いなのかもしれない。
この子は自分の都合のいいように
言いくるめるのが上手いけど、
それを私が正面から率直に言ったら
どう感じるんだろう。
優柔不断な私は迷ってばっかりだな。
こんな感じで色んなことが頭に浮かんで
どれがどれか分からなくなるのだ。
最近はシャワーを浴びてる時に、
お風呂で本を読んでみたいなと思った。
自分の気になった本を買って
お風呂の湯船に全ページを浸して
ページを読むごとに千切っていくのだ。
1度しか読めない本だからこそ面白い。
それにお湯で艶やかに光っている本も
見てみたい。
思えば思うほど楽しくなってきて、
即決だった。
青い表紙の面白そうな漫画を買った。
サラッとした紙質で
少しひんやりしたその漫画は
お湯でツヤツヤにひかり、
次第にふやけていった。
読むごとに手の中でぐちゃぐちゃになり、
もう見れないページが増えていった。
アネモネの花畑が出てくるシーンや
主人公が船から落ちた時に
すごく大きなクジラを見たシーンなどは
千切るのが惜しかった。
でも、もちろん千切った。
いよいよ最後のページをめくる。
そこにはある一言が書いてあった。
"Good Midnight!"
何故だろう。
とても心惹かれ、
このページだけはどうしても千切れなかった。
惜しいとか
そんなもんじゃない。
もっと大きな何かがあった。
運命って多分こんな感じだと思う。
嬉しくもあり、同時に悲しくもあった。
漫画を裏返した私の目に映ったのは
「この物語はフィクションです。」
チリリリリン。
アラームが私を起こす。
スマホを見ると52回目のアラームだった。
また起きれなかった!と、
毎回なる。
今日は大事な予定があるっていうのに。
5分で支度をし、
家を飛び出す。
今日は大人気ゲームのグッズの発売日なのだ。
昨日の夜、目星をつけて
余分にお金も入れてきたってのに。
開店ダッシュしようと
動きやすい服を選んだってのに。
寝坊したら水の泡じゃないか。
もちろんお店は大行列。
限定パネルも
人で見えず、
やっと中に入れても
欲しかったものは全て売り切れ。
せっかく来たので
スティッカーを買った。
貼るところもなく、
ただただ踏み潰しそうだ。
帰る途中、
対象商品を買うと
ブロマイドが貰えるということを思い出した。
もう売り切れてるだろうと分かってはいるが、
諦めきれずにお店へ戻った。
対象商品が少しだけ残っていたので、
ルンルンでレジへ行くと、
ブロマイドが貰えず、
店員さんになぜかと聞くと
ブロマイドは無くなり次第終了なんです。
と言われた。
そうですか。と言い
お店を出た。
さっきスティッカーと一緒に買ってたら、
まだ貰えたかもしれない。
そもそも寝坊なんてしなければ、、
上手くいかないことだらけで
涙が零れた。
すると何故か空が泣く。
泣いてるところを隠してくれているのだろう。
でも服もびっしょりだし、
スティッカーもシナシナ。
やってくれたなぁと
雨粒が降ってくる空を見上げた。
歯磨きをし終わり口をゆすごうとした時、
洗面台に虫が見えた。
私は虫が大嫌いだ。
どんなに小さい虫でも
無意識に大きな声を上げる。
そして逃げ回るのだ。
洗面台にいたのは
中くらいの大きさ。
家中に響き渡る声を上げて
全力でスマホだけを持ってリビングへ逃げる。
ピロリッと
フクロウに似てて覚えやすい君からのLINEが
急にくるもんだから、
びっくりしてスマホを投げた。
内容はお店を始めたということだった。
冷房が効きすぎて肌寒い店内は
天井の装飾は多すぎて
目がチカチカする。
売ってるものは全て手作り。
隅に小さなカフェもあるそうで、
メニューは
パンケーキ
ショートケーキ
アップルパイ
モンブラン
ミルクティー
アイスティー
ココア
抹茶ラテ
と、
少ない気もするが
色がカラフルで可愛い。
しかしテーブル席の椅子の所々に
動物の置物があるのはよく分からない。
お客さんが帰る時は
"Good Midnight!"
と言ってるらしい。
またのご来店お待ちしております。で、
いいと思うが。
お店は少し分かりにくい所にあるらしく、
探して来てみて、と送られてきた。
暇な時にね、と送り、
洗面台にいる虫から目を離したら逃げられて、
ビクビクしながら寝なきゃいけなくなっちゃう
悲しきゲームが始まった。
視力が悪くなった。
メガネのレンズは分厚くなり、
日常生活には支障出まくりで
メガネを探すメガネがいるほどだった。
私は耳も悪い。
甲高い声の人じゃなくても、
よく耳の奥が震えて
声が聞こえなくなることがある。
記憶力も悪い。
メモ帳に書いて手に持っておいても
いつの間にか無くなっていて、
どこかに置いたのか
それすらも分からなくて、
手に書こうとしたら
ペンを置いてる場所を忘れて、
やっとペンを見つけたと思ったら
何を書こうとしたのか忘れて。
理解力は皆無だ。
いつも相手と話がズレていて、
何を言っているのか分からない。
棚、机、電気など
単語が出てこず、
全然話せない。
コミュニケーションをとる方法が無くなった私は、
毎日ゲームをしていた。
そのゲームにどハマりし、
視力は更に悪くなった。
でも、
視力が潰れても
命が燃え尽きるまでゲームしていたいって思った。
漫画、ゲーム、アニメ。
三種の神器に沼った私は
ちょっと前に読み出した漫画の一言を
毎晩寝る前に呟いている。
"Good Midnight!"
このままズブズブと
ダメ人間になっていってもいいのだろうかと
たまに思うが、
その時はその時に考えればいい。
未来の自分に
全て押し付けるバカみたいだけど、
今が楽しければいいかな。