お願いだからみんな消えて。
人間関係に疲れて、
何もかも嫌になって、
神社にお参りに行った時に願ったの。
そしたら「チリンッ」って
鈴の音が後ろから聞こえて、
気づいたら私以外みんな消えちゃった。
世界に一つだけ。
世界に一人だけ。
他に人がいないか探していた時に見つけた
1輪の小さなたんぽぽに
これまでの経緯を話した。
草花は残っているようだが、
人はいない。
スーパーも、商店街も、
どこにも。
コンビニもやってなくて、
水も出ないし、
電気もつかない。
ご飯もなくてお腹がペコペコだ。
でも本はあった。
何冊か読んで
これは夢だと自分を落ち着かせようとした。
でも暑くて暑くて、
現実に引き戻された。
小説を破り
自分でもびっくりするぐらいの声で叫んだ。
あの時願わなければよかった。
いつも思い通りにいかなかったのに、
なんで今更叶えてくるんだ。
熱中症と思われるふらついた足取りで、
道路の真ん中に寝そべった。
物語はハッピーエンドばかりじゃない。
私の人生もそうみたい。
このまま一人で飢え死にます。
"Good Midnight!"
私は今、旅をしている。
平々凡々な日常生活に飽き、
少しの荷物と共に家を出たのが2年前。
お金は使いどころがなかった貯金が結構あった。
移動手段は己の足。
適当に歩いていくだけなのだが、
イヤホンでケルト音楽を聴くので、
胸の鼓動が高鳴り
すごくワクワクするのだ。
どこのホテルも部屋が空いておらず、
奮発していいホテルに泊まった夜、
字の読み方を忘れないようにと持ってきた
漫画や小説たちを引っ張り出し、
表紙で読む本を決めた。
異世界、ヤクザ、逃避行、ギャグコメ、永久ループ、妖、
色々な種類があったが、
非現実的な漫画を選んだ。
冒険ではないが
登場人物がいろんな所へ行く物語。
"Good Midnight!"
から始まるこの漫画は
私と世界を引き離し、
漫画の中へと引き込んでくれた。
気づいたら朝で、
急いで朝食を食べに向かった。
どこにでもあるたまごサンドが
漫画のせいか、
いつもより美味しく感じた。
私は夕方に散歩するのが好きだ。
色んな家から晩ご飯の匂いがするから。
でも靴を間違えたら
全然歩けない。
今日は間違えてしまった。
かかとの高い靴を履いてしまった。
足の裏がじんわり痛く、
もう歩けない!と思いながら早足で家に帰る。
晩ご飯は唐揚げにしようと思い、
肉に粉をつけて揉む。
油を注ぎ、
火をつけ、
唐揚げをいれる。
踊るように揚がる唐揚げから、
いい匂いが漂い
お腹が鳴った。
サクッといい音がしたかと思うと、
じゅわぁっと肉汁がたっぷり出てきて
一気に幸せな気持ちに包まれた。
9時。
少し遅くなってしまったと思いながら
洗い物をしてる時、
ふと、
いい夜って英語でなんて言うんだろう、と
とてつもなく気になった。
お風呂に入る前に
スマホを出して調べてみた。
「nice night」
うーん
なんだかまんま過ぎるなぁ。
もっとオシャレな英語ないのかな…と悩んでいると、
1枚の画像が目に入った。
それは
"Good Midnight!"
と書かれた画像だった。
翻訳すると、
「良い真夜中」
超オシャレじゃん!と、
1人で喜んだ。
まだ唐揚げの味が残ってる口の中は
私と共に10時を迎えた。
長いコートについた黒いフードを被る。
世界との音を遮断するために
星型のイヤホンをして、
夜の街を歩いていく。
聴く曲はいつも同じ
「月の光」。
みんなが寝ていくような
ゆったりとしたテンポで奏でられるピアノ。
私が聴くには勿体ないような曲だ。
漫画を買い、
1度家に帰る。
鳩時計が
午前3時と
時を告げる頃、
買った漫画を1冊ずつ取り出す。
最初はちょっと前に1巻目が出たばかりの
「□▲◆◎■▽○」という漫画。
夜ではなく夕方に読む方が合っている漫画だった。
次は結構前から買っていた漫画の12巻、
「✖★□▽◆★□■」の「○★▲▽◎」という漫画。
1巻目から自分の想像を遥かに裏切る展開で、
こちらはもう1時間前に読みたい漫画だった。
最後は初めて買ってみた漫画。
表紙に惹かれ、
絶対午前3、4時くらいに合うと思って買った
「★☆★☆★☆」という漫画。
"Good Midnight!"
という一言が
とてもいい漫画だった。
何より、
「月の光」という曲の雰囲気に
すごく合っていた。
この余韻に
浸って
浸って
浸り尽くして、
溺れてしまいたい、と
薄暗い部屋の天井を見つめた。
うちではオーナメントの代わりに
貝殻をクリスマスツリーに飾る。
一人暮らしでこの飾りは少し寂しいような気もするが、
他の家ではあまり見ない飾りを
私はとても気に入っている。
サンタさんなんて存在しないと思いつつ、
毎年手紙を書いてしまう。
当たり前だがプレゼントは来ない。
なので今年は
ハワイアンな便箋で書こうと思った。
いつも便箋だけ赤と緑で
上らへんにリースが描いてあるものを使っていた。
だからツリーと統一してしまおうと
思い切って買ったのだ。
わくわくしながら寝た翌朝、
なんと
プレゼントがあったのだ。
うええおぉうぉあああ!!!
と、
可愛くない喜び方をしてしまったが、
中身はちゃんと
私の欲しかったものだ。
いつでも読みたくなるような、
飽きない漫画が欲しいと書いた。
表紙を見た瞬間
あ、これ好きぃぃぃ!!と叫んだ。
1ページ目から
私の好みを知り尽くしたように
惹かれる一言が書かれていた。
"Good Midnight!"
読み終わるまで
今日はここから動けないだろう。
クリスマスツリーの1番上に飾られている
ラメ入りの大きい貝殻が
日光に照らされ
きらきらと光らせながら
私を待っていた。