るに

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9/2/2024, 12:18:28 PM

何にも興味が湧かない。
何にも夢中になれない。
全部どうでもいい。
抜け殻みたいな毎日。
私は何のために生きているんだろうと、
今日もやらないといけないことを
ほっぽり出して
ゲームをする。
ゲームはただの暇つぶし。
いつも飽きてしまい、
インストールとアンインストールを繰り返す。
でも
今日のゲームはなんだか違う。
世界観も
操作するキャラクターも
全てに惹かれる。
心の灯火が
抜け殻を溶かして
新しい世界へ連れて行ってくれるみたいに。
もう1人の自分が作れるこのゲーム、
といっても
操作するキャラクターは
人間ではないけれど、
夢見てた空を飛べたり、
フレンドとお話できたり、
毎日が楽しくなった。
今は楽しくお気に入りの漫画の話をしている。
私はあまり漫画を読まない方だが、
4冊だけ
同じシリーズで気に入ってる漫画がある。
でもそれは
誰にも教えたくなかったから、
みんなが話してるのを見てるだけだった。
ここにいる人だけに
その漫画のとくに好きな一言を紹介する。
"Good Midnight!"
流石に漫画名は言いたくないし、
ゲーム名も言いたくない。
独り占めしたいという気持ちが強い私は、
ベランダで少し欠けた月を見ていた。

9/1/2024, 12:02:36 PM

私はよく「追いLINE」というものをしてしまう。
会話と違って、
すぐに反応がないから
次から次へと送ってしまうのだ。
だから友達にはウザがられてばかり。
次第に話すのが気まずくなり、
開けないLINEとなった。
どこにもやり場のない話題は
ずっと積もっていき、
人との会話を好むアウトドア派だったが、
誰とも話さないインドア派になった。
誰かに話を聞いてもらったら
治るんだろうけど、
もうそんな勇気はどこにも残っていなかった。
Xなどには興味も無く、
常にひとりぼっちで、
寂しかった。
そんな時出会ったのが
アヒル隊長だった。
「ぱふ」っとなる可愛らしい音、
アヒルの見た目で
私の心は全て埋め尽くされた。
それから百均などで見かける度に買っている。
今では500体ほどいる。
ちょっと疲れた時に鳴らす音が
とても癒されるのだ。
今日も私はアヒル隊長を買う。
ふらっと立ち寄った本屋さんに
売っていたのは意外だが、
他のアヒル隊長よりオシャレに見えて
少し気分が上がる。
ふと、横を見ると
人気の漫画コーナーがあった。
そこにあった1冊の漫画が気になり、
アヒル隊長と一緒に買ってしまう。
夕方、
早速読もうとページをめくると、
"Good Midnight!"
と書かれていた。
翻訳してみると「よい真夜中」。
すごくいい言葉だと思い、
誰かに共有してみたくなった。
でも誰に…。
…LINE?
少しだけ、
ほんの少し勇気を出して
LINEを開いてみちゃう?
と、自分に問いかけ、
思い切って送ってみた。

「Good Midnightって素敵な言葉だよね。」

「翻訳してみたけど、めっちゃオシャレで素敵だね🥰」

なんだ。
こんなもんなんだ。
相手の顔が見えないから
反応わかんなくて、
私が勝手に勘違いして
勝手に話しかけなかっただけなんだ。
もっと早くLINEを開けばよかった。
人との会話は
やっぱり暖かくて
楽しくて
安心する。
沢山の涙が頬を伝り、
床に落ちていった。

8/31/2024, 11:20:15 AM

すみません。
本当は僕、アンドロイドなんです。
戸籍や住所は全部デタラメで、
飲食も
食べること、飲むことは
できますが、
エネルギーにならないので
幻影機能を使っていました。
あなたが人間と間違えるのも
無理はありません。
柔らかい体、
長い黒髪、
僕はどこから見ても普通の少女ですからね。
でも、すみません。
防水機能は無くて、
プールは行けません。
不完全な僕で
申し訳ないです。
気持ち悪いですよね。
アンドロイドと友達なんて。
今後一切接触しないので
ご安心ください。
え?
別にアンドロイドでも構わない?
プールはやめて山でも登ろう?
ありがとうございます。
僕といてくれるんですか。
すごく嬉しいです。
あ、そうだ。
この間お借りした漫画、
とても絵柄が好みでした。
言葉選びがお上手な漫画家さんなのでしょうか。
僕は特に、1番最初の一言が好きです。
"Good Midnight!"
ってやつです。
今度漫画お返ししに行きますね。
山登り楽しみにしてます。
僕のことアンドロイドだと知っても、
人間と同じように扱ってくださり
ありがとうございます。
これからもずっと仲良しでいましょう。

8/30/2024, 10:57:07 AM

誕生日にあげようって決めてた。
雨とコアジサイという
紫陽花の香りがする香水。
普段香水なんて買わないし、つけないもんだから
値段の高さに驚いた。
どんなのがその人に合う香水なのか
お店の人に聞いた。
匂いのキツイものでなければ
どんな香水も合うとのことだった。
だからパッケージで選んだ。
雨が好きだし、
紫陽花も好き。
紫陽花に匂いはないけど、
コアジサイには虫を寄せつけるために
甘い香りがするらしい。
目を惹かれるに決まってる。
午前3時、
早速つけてみた。
雨の匂いの中に
ほんのり香る甘い匂い。
この香水には
きっと
私の大好きな漫画の一言が
1番合う。
"Good Midnight!"
自分の誕生日に
自分へのご褒美にあげようと
奮発して買った香水。
夜はどこにも出かけないけど、
出かけるためだけにつけないってのも
悪くないのかなと
金平糖を砂糖がわりに入れた
コーヒーを飲んだ。

8/29/2024, 12:48:37 PM

私の命の恩人は、耳が聞こえなかった。
私の家族は
どこにでもいるような普通の家族だった。
けど、
肌寒さが微妙で
鬱陶しかったあの日、
家族はバラバラになった。
父も母も姉も
事故で亡くした私に
残ったものなんて何も無かった。
親戚の中でも
私を引き取ってくれる人はいなかった。
だから歩いた。
何日も飲まず食わずで
ひたすら歩いた。
誰か、
神様みたいな人が
私を助けてくれると信じて。
そして本当に神様みたいな人が
助けてくれた。
何不自由無い生活を送らせてくれた。
でもその人は耳が聞こえなかった。
昔は聞こえたらしいけど、
年をとると共に
キレイさっぱり
聞こえなくなったみたい。
手話を習い始めて
最初はぎこちなかったけど、
話せるようになってきて
すごく嬉しかった。
そんなある日、
その人が倒れた。
入院して今日で半年。
ずっと目を覚まさないまま。
私はまた目の前で家族を亡くすのか。
また何も出来ずに終わるのか。と
沢山泣いた。
毎晩泣いた。
数日経った時、
夜中の2時49分
容態が急変した。
その人は死に際に
1度だけ目を覚まして
口を動かした。
声は出ていなかったけど、
拾ってくれた時から
ずっと手話で話していた
あの大好きな漫画の一言のことだろう。
たしか、
"Good Midnight!"
だったっけな。
あなたは一体どれほどの物を
私にくれるんだろう。
熱い涙が頬を伝った。
言葉はいらない、ただ…
続くとは限らない毎日、
目の前で死にゆく人を見る気持ち、
それも大事で
記憶に残さなければならない物なんだって、
人生はここで終わんないって。

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