るに

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私の命の恩人は、耳が聞こえなかった。
私の家族は
どこにでもいるような普通の家族だった。
けど、
肌寒さが微妙で
鬱陶しかったあの日、
家族はバラバラになった。
父も母も姉も
事故で亡くした私に
残ったものなんて何も無かった。
親戚の中でも
私を引き取ってくれる人はいなかった。
だから歩いた。
何日も飲まず食わずで
ひたすら歩いた。
誰か、
神様みたいな人が
私を助けてくれると信じて。
そして本当に神様みたいな人が
助けてくれた。
何不自由無い生活を送らせてくれた。
でもその人は耳が聞こえなかった。
昔は聞こえたらしいけど、
年をとると共に
キレイさっぱり
聞こえなくなったみたい。
手話を習い始めて
最初はぎこちなかったけど、
話せるようになってきて
すごく嬉しかった。
そんなある日、
その人が倒れた。
入院して今日で半年。
ずっと目を覚まさないまま。
私はまた目の前で家族を亡くすのか。
また何も出来ずに終わるのか。と
沢山泣いた。
毎晩泣いた。
数日経った時、
夜中の2時49分
容態が急変した。
その人は死に際に
1度だけ目を覚まして
口を動かした。
声は出ていなかったけど、
拾ってくれた時から
ずっと手話で話していた
あの大好きな漫画の一言のことだろう。
たしか、
"Good Midnight!"
だったっけな。
あなたは一体どれほどの物を
私にくれるんだろう。
熱い涙が頬を伝った。
言葉はいらない、ただ…
続くとは限らない毎日、
目の前で死にゆく人を見る気持ち、
それも大事で
記憶に残さなければならない物なんだって、
人生はここで終わんないって。

8/29/2024, 12:48:37 PM