英語の授業中。単語の意味を調べおわり、あまりの時間で何気なく辞書を眺めた。
“heart”
その文字にふと目が止まった。
その意味を確かめる。
心臓。
最初に目に入ったのはその文字。体の中心の、何より大切なもの。私を動かすもの。
愛情や勇気などの抽象的な概念。
これは、大好きな君に動かされるもの。
この思いを、あっているかも分からない、私の拙い英語で記すなら、
I am crazy about you.
My heart is full of you.
私にはこれといった特技も趣味もない。
成績はいつも3、偏差値はいつも50あたり。
運動はとてつもなく苦手だし、熱中しているものも特にない。
私の周りの人たちみんなが私より充実していると思う。みんなそれぞれ好きなことも好きな人に関する話題も何かしらあるのに、私だけ違うみたい。
正直、何もかも羨ましい。
私もみんなと同じように、何か心奪われるようなものに出会ったら変われるのかな。
ないものねだりなのはわかってる。
私の欲しい物全てが手に入るわけが無い。
でもいつか、一つでも、今ない「何か」を手に入れられたらいいな。
幼稚園から高校まで、腐れ縁のあいつ。
何かにつけて私にイタズラを仕掛けてくるし、デリカシーの欠片もない発言もよくしてくる。
家も隣だし、一体いつまでこんな男と付き合わなきゃいけないんだ。
ある日、今まで皆勤賞だったあいつが欠席した。
変なことを言ってくるやつがいなくてせいせいする…はずなのに、なんだか物足りない。
いつもはあんなにウザイのに、いないと少し寂しいなんて変。
そんなわけないのに。
好きじゃないのに。
好きじゃないはずだったのに…!
─それでは、今日の天気です。
今日も全国的に大気が不安定で、午後からはところにより雨が降るでしょう。
「雨が降るって言ってるわよ、傘持った?」
「もう持ってるよ」
「連日あまり天気が良くなくて嫌ね」
「…行ってきます」
確かにほとんどの人は天気が悪ければ気分は下がるだろうが、私はそうでも無い。
私の大切な友達は、家を出る時雨が降っていなければ、傘を持ってこないから。
私の傘は特別大きくないから、二人で入ればいつもより君が近くに感じる。
いつもより近くで笑う君を見られるだけで、私の心は快晴なんだ。
私には、友達と言えるような友達がほとんどいなかった。私は、皆と同じじゃないと気づいていたし、多分、皆も私のことは「変わり者」だと思っていただろう。
ただ一人、君を除いて。
君だけは、私が皆と同じじゃないのを気にせず話しかけてくれたし、何より傍にいるだけで心が温まるような、そんな気分になった。
その明るさと温かさで私を照らしてくれた。
そんな君が、何よりも大切な存在。