窓越しに見えるのは
左手の薬指に指輪をしたふたり
オレンジ色の明かりに包まれた
少し広いダイニングで夕食を囲んでいる
笑いが絶えないとまではいかないけれど
お互いにしか聞こえない声で
もう分かりあっているような会話を
重ねて、重ねて、紡いでいるように見える
その美しさにめまいがして
座り込んだ足元には
土砂降りのあとの河川のような
濁流が私の方へと流れてきていた
目に見えるのは
一瞬にして流されるはずの濁流なのに
めまいがして座り込んだはずなのに
そこから少しも動かなかった
動けなかった
あの人からほのかにする
あの香りは
香水なのだろうか
柔軟剤なのだろうか
会いたいのに
早く会えなくなってほしい
あと2回
ちぇっ……なんでよりによって
コイツと相合傘なんだよ
「そんなあからさまに嫌な顔するな」
「だってえー俺のはじめての相合傘ぁ〜」
「そんなに嫌ならびしょ濡れで帰ればいいだろ」
「……すんませんっ、入れてください!」
天気予報、雨なんて言ってたかな〜
ミスったな〜
「つーかお前の傘デカイな!めっちゃ良いヤツっぽい」
「父さんから譲り受けた」
「ほぇ〜かっけえな」
「……そうかよ」
「お前のお父さんが、な」
「……分かってるよ」
言われなくても分かってるよ
俺はかっこいい部類の男じゃないってことくらい
「んまあ!でもお前にもこの傘似合うな!入れてくれてあんがとな!マジ助かる!」
分かってる
こういうところがずるいって
底が無ければ
止まることなく
どこまでも
いつまでも
落下し続けていく
落ちていくことを
楽しんでいるかのように
もしも突然、底が現れたら
跳ね返るのだろうか
弾け飛ぶのだろうか
一瞬にして砕け散るのだろうか
この思いは、どうなるのだろうか
また1年経ったときに
今の激動を懐かしく思うのだろう
今だって1年前を懐かしく思う
早いなぁ、とも思う
だからきっと今のことも
そうなってくれるだろう
その為に今を生き抜くのだ
街で見かけたアイツは
自分には見せない笑顔で
大事な彼女に手を繋がれ
猫を被っていた
俺は嫉妬している
きっと俺と会っているときの方が
アイツの本性が現れているという自負があった
けれど思い返せば
あんな無邪気な笑顔を俺には
見せるはずがなかった
ああ、くそっ。
今すぐぶっ壊してえ。
そんな猫被りの笑顔なんて
作れなくしてやる