雪だるま

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6/10/2023, 12:05:11 AM

 人間の堕落を知った神は激怒した。そして、人の世に二度と光が射さぬよう、太陽を隠してしまわれた。
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 一人の少女が、人々の嘆きの声と永遠に明けない夜の闇の中、神に祈りを捧げた。神は彼女の純粋な願いに心を打たれ、彼女の命と引き換えに、人の世に再び光を与えることを約束された。
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 ふと目覚めた少年は、もう長い間暗闇に閉ざされていた世界に一筋の光が射しているのを見つけた。人の世に、再び朝が来たのである。人々はこれを単なる奇跡だと喜んだが、少年は、少女の命が朝日に姿を変えたことを知っていた。

 少年は生涯、この時の温もりを忘れることはなかった。

(朝日の温もり)

6/8/2023, 7:10:23 AM

世界の終わりに君となんていてあげない。
僕の世界が終わっても、君の世界は続くから。
僕の世界は僕一人で終わらせる。
いつか、君の世界から僕が消えたとしても、君には君の世界でずっと笑っていてほしい。

でも。
もしも何かの間違いで、君の世界が僕の世界よりも早く終わってしまったら。
君の世界が終わるのと一緒に僕の世界も終わるだろう。

だから僕は、今宵も部屋の窓から月を眺めて祈る。


「君の世界が、僕の世界よりも長く、幸せでありますように」


              ~名前のある猫~

(世界の終わりに君と)

6/6/2023, 12:23:39 AM


 「私、こうくんのこと、好き!」
 「僕も、ひまちゃんのこと、大好き!」
 「一緒だね」
 「うん、一緒だね!僕たち、結婚しよう」
 「それは駄目」
 「えっ…」
 「結婚する前に、まずお付き合いしないとね」
 「おつきあい?」
 「うちのママが言ってたの。でね、お付き合いするにはね、ある合言葉が必要なんだけど、こうくん分かる?」
 「ええ、わかんない…」
 「あのね、こうやって言うんだよ!『ひまりちゃん、ぼくと、おつきあいしてください』」
 「わかった!えっと、『ひまりちゃん、僕とお付き合いしてください』」
 「うん、いいよ!」

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探しています:

三好航輝くん(5)
早瀬ひまりちゃん(4)

6月4日午後5時頃、この公園に二人でいるところを目撃されたのを最後に行方が分からなくなっています。お心当たりの方は下記連絡先までご連絡下さい……


(誰にも言えない秘密)

6/4/2023, 9:33:26 PM



 「ママだいすき!」
 「ありがとう!ママも○○のこと大好き!」
 「ほんと!?」
 「本当。さあ、そろそろねんねの時間だよ」
 「ママもいっしょ?」
 「うん、一緒にねんね。じゃあ電気消すよ」
 「はーい!ママおやすみ~」
 「おやすみ」





 安アパートの狭い部屋。
 ここが親子の生きる場所。


(狭い部屋)

6/4/2023, 5:46:55 AM


 「ご気分は?」

 私は部屋に入り、ただぼんやり半身を起こしている女に言った。
「ええ……。」
「憂鬱そうですね。」
「ええ、そう、とても憂鬱。あなたはどう?いいえ、あなたはきっと幸福だわ。少なくとも今の私よりは。」
「そうでしょうか。」
 女は気だるげにため息をついた。
「だって、あなたに私の気持ちがわかって?あの人の帰りをただこうして待ち続けるばかりの女の気持ちが?」
 私が、さぁ?と答えると、女は満足そうに言った。
「そう、わかりっこないわ。所詮おまえは御用聞きだもの。でも、おまえは素直だね。そういう素直な人は私、好きよ。」
 今日は御用聞きか。私は心の内で苦笑した。

 「でも、あの人を待つあなたはとても幸せそうに見えます。」

 永い沈黙があった。機嫌を損ねたかもしれない。私はいつものように鞄から注射器を取り出した。

 「…そうね。私はこうしてあの人を待っているときだけ、幸せなの。」
「さあ、楽にして。」
「先生。」
 女が唐突に言った。窓の外では雨が降り続けている。今日は調子が悪いようだ。
「先生は私のことをかわいそうな狂女とお思いでしょうけど、そうじゃないのよ。私、ほんとうはわかっているの。あの人は私を捨てて別の女のもとにいった。あの人は私のことなんかもうすっかり忘れて、毎日楽しく暮らしているの。でも、それはあの人のせいじゃない。何もかも、私のせいなのよ。」
 女は楽しそうに言ったが、私は面白くなかった。
「そんなことありません。あなたは何も悪くない。」
「いいえ、そんなことないわ。たとえあの人が悪かったのだとしても、全部私のせいなの。そうでなくちゃいけないのよ。私があの人を待ち続けるために⎯」

 急に女の口が動かなくなった。

 「そんな風に昂奮なさってはいけません。」
 私は冷静に言った。
「…ええ、そうね。そうだわ。」
「お疲れでしょう。少しお眠りなさい。」
「ええ、そう、とても疲れた。そうね、もう眠ってしまおう。夢の中では、あの人に逢えるかしら⎯」
 私は女が眠ったのを確認して部屋を出た。強い薬を使ったから、夜まで目覚めることはないだろう。

 私は現在女を自宅に置き、その全ての面倒を見ている。女が親族に連れられて私のもとに来た時から、私は女の虜になった。



 私は、私を決して愛さない女を、永遠に愛し続ける。


(失恋)

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