冒険
古い、古い、
香ばしい香りのする濃い茶色の柱
キシキシと音を鳴らす板が並ぶ廊下
その廊下には黄緑の庭がよく見える大きなガラス戸
広くて何間も続く畳の部屋
使っている部屋、
座布団を置いてるだけの部屋、
いつも線香の香りがする仏間
夏に訪れていた祖母の家
たった一軒の家
端と端のある家
不思議と、どこかに繋がってるんじゃないかと
歩き回ったあの夏
冒険の終わりは
いつも祖母の膝の上
今はもうないあのダンジョン
届いて....
もう貴方はそこにいないかもしれない
多分、いないと思う
宛先不明で返ってくるであろう手紙を
それでも一縷の望みを託してポストへと入れる
配達員さんに無駄足を踏ませてしまうかもしれない
ごめんなさい
でも、いま、
ようやく私は貴方に
この手紙を出すことが
できた
あの日の景色
あの日の景色を忘れない
真っ赤な夕暮れで
紅く紅く
でもそれは決して毒々しくはなく
泣きたくなるような美しい夕空だった
貴方の血潮を吸い上げでしまったかのように
きれい、そう溢れた言葉に
私は泣いた
貴方がいる空は
最後の眩しい一線を残して
宵闇を連れきた
願い事
笹の葉が揺れるあの歌
歌ってたあの頃
何にでもなれるって思ってた
アイドル?
ケーキ屋さん?
漫画家?
お花屋さん?
気がつけばレールの上に乗って
私、何がしたかったんだっけ
私、何が好きだったんだっけ
いつの間にか埋没していって
今日ってなんの日?
久々に見上げた空に
それでも星は輝いてる
だから願ってみた
「私が私になれますように」
空恋
さっき、全部流したの
特別綺麗でもない、
道の脇の側溝に
ドロドロに詰まり切った恋にお似合いの
溝(ドブ)に捨ててやった
これで綺麗な私になれる
空っぽになった心
まだちょっとヘドロがこびりついてるけど
一回すすげば綺麗になるはず
軽い軽い
体が軽い
今ならあの夕暮れの
茜色の布団の中へ行けそう
きっと気持ちいいだろうな
空っぽになったはずなのに、
綺麗な夕空を見たら
視界が霞んで
涙が溢れて
苦しくて苦しくて仕方ない
私は空っぽになったはずなのに