梅雨って字を見ると梅が降ってくるのを想像するのと彼女が笑う。そんな笑顔の向こうに梅の花が降るのを想像していたら、たくさん梅があたったら痛そうだよねと続ける彼女に、そっちかとそんな気分になった。頭の後ろで手を組んで梅干しははちみつ入りが好きーなどと謎の歌を歌いながら歩いていく彼女。
自由だなと雲一つ無い空を見ながら後を追う。
あの頃の私へ楽しい時間を過ごしているけど後々苦労が待っているよなんて言ったら耳をふさいでしまいそうだけど。それでも楽をやめようとはしなかっただろうね。だって楽しいことには勝てないんだから。苦労なんて一切感じなかった、はたから見ればどうしょうもないとしても周りなんて興味の対象ですらなかったのだから。その時間の楽しい気持ちは覚えておきなよずっと思いかえしては取り戻せないかと悔やむことになるから
逃れられない死の運命がひたひたと足音を立てて近づいてくる。繰り返すその音に耳の奥が占拠されているようだ。永遠と続くその音がどこまでも不愉快で苦しみがどこまでも滲んだようなそんな音がついてくる。いつもいつも後悔と失敗の繰り返しでいつもいつも何かのトラブルを引き起こしてなにかにつけて騒がしい。それでもひたひたは変わることなく悪夢のよう。
透明な瓶から覗く深海の夢を見た。小さなその瓶の窓に映る美しい緑の小さな光が雨のように泡とともに浮かんでいく。鈍色の鱗の長いものが水を割いて通り抜けていくのが遠くで見えた。だんだんと吸い込まれるように瓶の中へ流し込まれていくのを感じながら水の音を聞く泡のはじける音がする。きれいだけれど息苦しい。そんな事を考えながら眼の前を行く透明な光の傘から伸びる薄糸の手を揺らめかせる海月とともに揺らめく
恋物語が読めなくなったあんなに好きだったのに。現実にはほしくなかったから知らない世界を覗くようで楽しく読んでいたのに。現実と地続きになって世間とかそのようなものが押し寄せるとともにすっかりと作り物の世界から遠ざかるように押し出されるように入れなくなっていった。淋しくて仕方がない。異世界をのぞくような面白さをもう感じ取れないと思うたびに楽しかったそこに執着する。それでもその世界の扉にはもうとどかない。ただくすんだ現実が横たわる。