沼崎落子

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4/22/2023, 10:54:14 AM

 長女だから、と金を稼げと外へ追い出されてはや数年。長男はまだ定職が見つからず家でごろごろとしながらも母親に甘やかされてそだっているらしい。その癖、わたしに金をせびるのだけは自信満々に長男としての権力をふりかざす。それは社会的にみれば弱者と呼ぶのもおこがましい哀れな社会性のない生き物だったけれど可哀想なので金を渡していた。

 セックスワーカーとして日払いの金を八割は家に、二割は自分のものとしていた。性病にかからないように気をつけなければならなかったし、ナマのセックスの方が金を稼げたし、店の外で個人的に会うぶんにはより稼ぐことができていた。
 家族は自分のことを売女だとか、恥知らずだとか周りに言っているようだがセックスワーカーひとりに頼りきって真面目な人間の素振りをしている彼らは一体なんだというのか。

「寄生虫ってやつなんじゃない」

 エースという名乗りを上げてわたしに貢いでくれる男が笑っていう。女の遊び方を分かっていて、後腐れなくわたしを弄び金を落としてわたしを捨てるこの男は嫌いじゃなかった。
 セックスのことは嫌いだといったわたしに「じゃあなんでこんな仕事してんのよ」と言われたので家族の話をした。人間とも思えないが家族という繋がりはある。言うことを聞かない、厄介な生き物たち。彼は話を興味深そうに聞いていた。それは失礼な仕草であると彼も分かっていてやっていた。わたしのことも、わたしの家族のことも同等に彼は見下していた。
 そして彼はわたしの家族を寄生虫だと呼んだ。

「……流石にそれは」
「言い過ぎじゃないでしょ」
 君の生み出す金をちゅうちゅう吸い取って生き長らえる気持ち悪い虫だよ。

 わたしはその光景を想像して吹き出した。男はにっこりと笑って「寄生虫のこと、いらなくなったら焼き捨てようよ」と言う。
 映画みたいにさ。
 村上春樹の?
 そう。イ・チャンドンの。

 それは家族に対して感じてはいけない気持ちだったかもしれないが、わたしには彼らにピッタリの言葉は寄生虫なのだと思った。

4/21/2023, 1:22:11 PM

 ぼたぼたと落ちる感覚がした。あ、え、うそ。自分の表情は歪になったが目の前の男はさして気にしていないようで、べらべらとわたしの提出したデータの不備を言い連ねていた。
 上司が満足気に自分のデスクへと戻ったあと、わたしもすぐさま修正のためにデスクに飛びついた。と、隣のデスクに座るゆうこさんがスルスルと近寄ってくる。彼女はとこか動きが鈍臭い。
「あの、何かありましたか」
「……生理が、来たっぽくて」
 わたしは素直に話した。今現在、来ると思っていなかった生理のためにナプキンがなかった。今日は15パーセントオフのクーポン券があるから夜用と合わせてまとめ買いするつもりだったのだ。
 ゆうこさんは「大丈夫ですか? 薬ありますか?」と心配そうに聞いてくる。わたしは恥をしのんでナプキンと痛み止めをもらった。

 トイレでスカートをおろすと、自分の下着に赤い血痕がいくつもついているのが見えた。お気に入りだつたのに。
 わたしはゆうこさんにもらったナプキンを取り付けて自分のデスクに戻った。テーブルの上にはチョコレートが置いてあった。ゆうこさんの方を見るとにっこりと笑っていた。  
 生理の時には甘いものはよくないらしい。でも、今日はその優しさだけで生きていけると思った。