沼崎落子

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 ぼたぼたと落ちる感覚がした。あ、え、うそ。自分の表情は歪になったが目の前の男はさして気にしていないようで、べらべらとわたしの提出したデータの不備を言い連ねていた。
 上司が満足気に自分のデスクへと戻ったあと、わたしもすぐさま修正のためにデスクに飛びついた。と、隣のデスクに座るゆうこさんがスルスルと近寄ってくる。彼女はとこか動きが鈍臭い。
「あの、何かありましたか」
「……生理が、来たっぽくて」
 わたしは素直に話した。今現在、来ると思っていなかった生理のためにナプキンがなかった。今日は15パーセントオフのクーポン券があるから夜用と合わせてまとめ買いするつもりだったのだ。
 ゆうこさんは「大丈夫ですか? 薬ありますか?」と心配そうに聞いてくる。わたしは恥をしのんでナプキンと痛み止めをもらった。

 トイレでスカートをおろすと、自分の下着に赤い血痕がいくつもついているのが見えた。お気に入りだつたのに。
 わたしはゆうこさんにもらったナプキンを取り付けて自分のデスクに戻った。テーブルの上にはチョコレートが置いてあった。ゆうこさんの方を見るとにっこりと笑っていた。  
 生理の時には甘いものはよくないらしい。でも、今日はその優しさだけで生きていけると思った。

4/21/2023, 1:22:11 PM