NoName

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2/26/2026, 11:01:06 AM

長寿の君は、僕に寿命という時間を与えた。
君と生きれることが何よりも嬉しかった。
なのに、君のいない時間ばかりが積み重なる。
君は今、どこにいる……こんなことなら

君は今

2/26/2026, 10:41:57 AM

「物憂げな空だね」

彼女はそう言って、いつものように花が開くみたいに笑った。
けれど、なにかがほんのわずかに、違った気がした。
それが何かは、分からない。

僕はその違和感を拾い上げかけて、やめた。

「そうだね。雨、降りそうだ」

踏み込むほどのことじゃない。
きっと気のせいだ。
そう思ったとき、彼女はもう一度笑う。
今度は、きれいに咲いた。

僕はその笑顔を見て、密かにほっと息を漏らした。
その瞬間、ぽつりと頬に落ちた。

「あ」

次の瞬間、雨脚が急に強くなる。
遠くの景色が白く煙っていく。

「走ろ!」

彼女は先に駆け出す。
水たまりを蹴って、髪を濡らして、振り返る。

「ほら、早く!」

その笑顔は、本当に楽しそうだった。
僕は息を切らし、彼女を追う。



喫茶店のドアベルが鳴る。
冷房の風が、濡れた袖に冷たい。

「雨宿りね」

そう言いながら、彼女はメニューを開いた。

「……これにする」

運ばれてきたのは、やけに背の高いいちごパフェだった。
雨宿りのつもりにしては、本気すぎる。

僕はコーヒーにミルクを落とす。
白がゆっくり広がって、やがて消える。

「おいし〜!」

足をばたつかせ、頬を押さえて、大げさなくらい目を輝かせる。
彼女はいつも、全力で喜ぶ人だ。
その明るさに、店内の曇りガラスまで少し晴れた気がする。

僕はコーヒーを口に運びながら、そんな彼女をただ眺めた。

なんだか、こんなことが前にもあった気がする。
初めてのはずなのに。

少しだけ、視界が霞む。
一瞬、スプーンを持つ彼女の指先がひどく遠く見えた。
冷房のせいか、湿気のせいか。

雨はやがて止み、僕らは店を出た。

別れ際、彼女は最後まで笑っていた。



目が覚める。
雨音はしていない。

窓の外は、からりと晴れている。

あの日、彼女が笑っていたことだけが、やけに鮮明だ。




物憂げな空