枯葉に似た虫がいると知った日から、落ち葉を踏んでバリッ!というとゾッとする。
今はしんどいと思うけど、楽しくやってるから安心して。
そんな甘い言葉を期待した。
死ぬ覚悟がないから生きている。そんな感じがよくわかった。
何年経っても自分は自分だ。
変われないことに気づけただけ、自分に何も期待しなくて済むから楽だ。
最初から、そうすればよかった。そうしていれば楽だった。
でもやっぱりちょっと、期待している。
そんな自分が一番嫌いだと、手紙にも書いてあった。
本当に変わらないな。
「花咲か爺さんの対義語って木枯らし婆さんでええのかな。」
友達がまた馬鹿なことを言っていた。
「アホか。爺さんの対義語は姉さんやろ。」
「そか。木枯らし姉さんか。」
「おう。」
「……」
「……」
「……なんやそれ」
「いやそっちが先に言い出したんや。」
「でも、なんかええなぁ、木枯らし姉さん。惚れたら終わり、生命力を吸い取られて最期は灰に……」
「それ、花咲か爺さんやないの。灰撒いて花咲かすやつや。」
「……え、じゃあ花咲か爺さんの灰って、木枯らし姉さんに惚れた男の……」
「アホか。」
やっぱり、アホや。
どうして、置いていったの?
そんなの、当人にしかわからない。
解のない問いを投げ続ける。自責に近いような、自戒に似ているような。
「辞めてしまいたい。こんな仕事。」
リハ終わり、舞台袖にしゃがみ込んでそう呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「さ!楽屋戻ろっか!まだまだブラッシュアップできそうなとこ沢山あったな!最高のステージにするぞ〜!」
絶対聞き間違いじゃない。あんなん聞いちゃったら何言われても「いや嘘やん」って思うのも仕方ないと思う。
正直、びっくりした。
彼に限って、心のどこかでそう思っていた。
疲れる職業だ。夢を振り撒くのが仕事。振り撒く種を作るのはプライベートだ。プライベートなんて言葉、あってないようなものだけれど。
リハ終わりは裏方のスタッフさん達が慌ただしく働いている。俺達の次のリハがあるから。目の前を走り抜けた背中に刻まれたライブのロゴ。それを見て俺は覚悟を決めた。
「仕事やなくて、有効期限付きの王子様や。ライブ終わったら何してもええから。」
大楽屋で談笑している彼を引っぺがして、小さく、でも真っ直ぐ向き合ってそう告げた。
彼は大きな目をまんまるにさせて、くしゃっ、と笑った。
「お前こそ、本番までにその関西弁どうにかしろよ。王子様なんだから。」
「当たり前だろ。そっちこそ、そのくしゃっ、てやつ直せよな。メイク崩れたら申し訳ないだろ。」
それはそっ、と言って彼はまた人の輪の中に戻って行った。やはりさっきのは聞き間違いだったのかもしれない。他に人はいっぱい居たし。彼に限って、そんなこと……
「ありがと。でも盗み聞きは良くないぞ。」
「俺が盗み聞きなんてするか。」
やはり、気のせいだ。
そうに違いない。