『雨と君』
強い雨風で部活が休みになった。
元々幽霊部員だからあまり関係無いけど...
家にはまだ帰りたくない。
きっとあいつが母さんと一緒にいる。
あいつがいる時に帰ると機嫌を悪くして
俺や母さんに当たってくる。
それだけは避けたい。母さんはなんであんなやつのことを...
天気がいいならゲーセンとかに寄って時間を潰せれるけど
今日は台風のような天気だ。よく学校は一日やったもんだ。
時間をどうやって潰そうかと学校内を歩き回っていると
教室で同じクラスメイトが一人で本を読んでいた。
物静かでどこか儚げなクラスメイト。
雨が降っている窓を背景に本を読む君は
なんだか見惚れてしまう。
話しかけようとしたけど
それを邪魔するわけにはいかなかった。
話しかけるならまた明日だ。
(気をつけて帰ってね。また明日。)
声をかけず心で唱えて手を振る。
さて、どこで時間を潰そうかな。
雨の中また廊下を歩き始める。
外の雨音が聞こえるのに自分の足音だけが廊下に響いた。
語り部シルヴァ
『誰もいない教室』
外は雨がどんどん激しくなっていく。
それなのにがらんとした教室はすごく静かだ。
大雨警報が出てもおかしくない天気だったが
学校はいつも通りだった。
ただ部活に関しては参加も帰るのも自由にしろと
先生は全部活に連絡を入れたそうだ。
今日は部活をしている人の方が少ないだろう。
私はすぐ帰れる距離だから教室で本を読んでいる。
いつも賑やかな教室だからこそ今日は本が進む。
窓が雨粒を弾く。パタタと音を立てるが静かだ。
きっと先生が見回りに来るまではこの時間は続くだろう。
誰もいない教室、静かで集中できる空間。
今はこの時間を楽しもう。
外は雨が降り続いている。
語り部シルヴァ
『信号』
深夜に散歩をしてみた。
この時期はまだ少し湿気があるが
夏に比べると随分と涼しくなった。
月夜の下の道はぼんやりとした明るさで眩しくもない。
気持ちのいい夜だ。
そう思いながら歩いているとピカピカと何かが光る。
よく見ると街灯の下で男女が騒ぎながら
夜景を撮っているようだ。
あまり写真には写りこみたくないなあと思いつつ
別ルートを歩こうとした。
すると女性がカメラのフラッシュを
明らかにこちらに向けて光らせている。それも連写だ。
おいおい...勘弁してくれ...
そう思って早足に去ろうとした。
しかし何かおかしい気がする。
どうせフラッシュを使うなら街灯を避けないだろうか。
写真に詳しい訳じゃないがどうにも引っかかった。
フラッシュも連写にしては不規則で
パターンがあるようにも見える。
3回短く光って1回長く光ってまた3回...
なにかマズイかもしれない。
そう思って警察に電話することにした。
後日警察から男女のトラブルが
もう少しで大事になるところだったと連絡が来た。
語り部シルヴァ
『言い出せなかった「」』
言葉が詰まった。
いや、出しても無駄だったというのが正しいだろう。
あれが夢オチだったとしてもそれが本当になってしまうなら?
誰だって喉が潰れるくらいあなたを呼び止めるだろう。
でも私が呼べばあなたは止まってくれる?
笑顔で帰ってからねと口癖のように
軽い言葉で返される。
私はあなたを呼び止める力を持っていない。
だからこそ、あなたがきちんと帰ってくることを信じてるよ。
あなたが出ていったドアに向き、にゃあんと鳴く。
静かだった。当然だ。これはドアだ。
あなたじゃないから返事が帰ってくるわけなかった。
わかってはいるのに鳴き声が止まらない。
早く帰ってきて。
語り部シルヴァ
『secret love』
あ、まただ。
机の中には丁寧に折られた紙が一枚入っていた。
私が落ち込んでいる時や悲しい時とかにいつも入っている。
紙を開くと"大丈夫。ひとりじゃない"と一文書かれていた。
何が大丈夫だ、何がひとりじゃないだ。
なんて最初は思っていたが緊張していたのか、
震える字を見て真剣さが伝わってきた。
なんとなくだけど、この人は本心でそう思ってくれている。
真剣に私を元気づけようとしている。
そんな風に取れた。
友達に言えば手紙の人が気持ち悪いと知らない所で
傷つけられるかもしれないから黙っている。
誰が私になぜこんなことしてくれているのかを
正直知りたいとは思う。
でも知ってしまえばこの人は手紙を
送ってくれなくなるかもしれない。
だから私は知りたいと思う気持ちを胸に押し込めて、
手紙にありがとうと念を込めた。
語り部シルヴァ