語り部シルヴァ

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4/24/2025, 10:58:42 AM

『巡り逢い』


『あ』
春の眠気を誘う陽気の下散歩をしていると偶然にも
高校の頃の後輩と出会った。
地元の高校から離れた場所に住んでいたのに
こんな場所で出会うなんて思っていなかった。

この後輩とはよく話が合って部活内、
いや高校内で一番仲が良かった。
ただ関係を壊したくなかったから何も言わず大学に行き
地元を飛び出た。

こうしてまた会えるとは思っていなかった。
話が盛り上がり、空も気付けば茜色に染まり始めていた。
そんな頃合に当時の謝罪と想いを伝えることにした。

「あの頃はごめん...」
「大丈夫ですよ。今ならあの頃の
先輩の気持ちわかりますから...」
「それと、俺ずっと...!」

あともう一言。俺の言葉は詰まりなんでもないと濁した。
後輩は何も聞かなかった。俺の言葉を予想していたんだろう。
後輩の左薬指が夕日を反射して輝いていた。
これ以上は野暮ってやつなんだろう。

「じゃあ、そろそろ帰るよ。また出会えてよかった。」
「私もです。先輩、お幸せに。」

後輩の背を見送ったあと、俺の左薬指の指輪がキツく感じた。
後輩とまた会えただけでも俺は嬉しかった。
それと同時に、もう一生会わないようにと願った。

語り部シルヴァ

4/23/2025, 10:42:56 AM

『どこへ行こう』

明日急に休みになった。
唐突に訪れた休日を折角だから有意義に使いたい。
さて...何をしようか。
一日中ゲーム...はいつも通りで味気ない。

スマホで近くに何があったかを調べるほど
遊びで外出することはない。
近くにはゲーセン、カフェ、ショッピング...
思った以上に色々あった。
ここに引っ越してきてから数年、
全然開拓していなかったんだなと思い知らされる。

たまには、行ってみようか。
とりあえず調べてみて面白そうな場所をまとめた。
年甲斐もなくベッドでワクワクしてしまう。

明日は良い一日になるといいな。

語り部シルヴァ

4/22/2025, 10:20:59 AM

『big love!』

「はい!どーぞ!」
むふーと彼女は誇らしげに両手を広げて構えている。
尻尾があれば絶対に振ってそうだ。

ふらふらと吸い込まれるように彼女の前で
膝から崩れ落ちて全体重を預ける。
わっと驚いた声がしたがすぐに頭を撫でられる。
髪の毛が彼女の手によってわしゃわしゃと音を立てる。
雑な撫で方だが、そこが妙に安心する。

「ふふ、お疲れ様。」
柔らかい肌に優しい手、甘い声が疲れていた体に染みる。
同じ石鹸を使ってるのに彼女特有のいい匂いがする。

「...ありがとう。」
「いーよ。そんな君が大好きだからさ。」
体を起こし彼女を抱きしめる。

「俺も、大好き。」
彼女から微笑んでありがとうと強く抱き締めてくれた。

語り部シルヴァ

4/21/2025, 10:22:13 AM

『ささやき』

「ほら、我慢しないでさ...」
「い...嫌。折角ここまで我慢できたのに...」
優しさの裏にある誘いが私の決心を揺るがす。

「頑張る君も素敵だけど、たまには許してあげなよ?」
この人の声はどうしてこうも自分を許したくなるのか...
いや、ダメだ。ここで許せば自分が頑張ってきた意味が...

「僕は好きなことを好きなだけする君も見てみたいなあ」
あー...ダメだ。ずっと私が折れるまで続ける気だ。
...明日からまた頑張ろう。

諦めてポテチの袋に手を伸ばす。
「じゃあ、コーラ持ってくるね〜」
満足気な声で映画鑑賞の準備が始まる。

ダイエット...明日からちゃんとやります。
そんな反省の念を込めてポテチの袋を開ける。
好きなコンソメの香りが反省の心を吹き飛ばした気がした。

語り部シルヴァ

4/20/2025, 11:59:54 AM

『星明かり』

今日の夜はいつもの静けさが抑えられている気がする。
暖かくなっていくにつれて夜も少しずつ元気さを取り戻していく。
もう風呂上がりも暑くなって、
薄着で外に出ると風が心地よく感じる季節になった。

この田舎は夜になると本当に真っ暗だ。
視界は暗く、家の明かりから少しでも離れると
暗闇に飲み込まれる。
あとは獣の声と草が風で擦れる音。
暖かくなってきてから賑やかになってきた。

何も無くて暇だが、月が生えない夜にだけ
不思議なことが起こる。
家から離れて少し歩く。
右も左もわからなくなる場所まで歩くと、星々が落ちてくる。
その点々と広がる星が地上を照らす。

奇妙な出来事だが、今では優しいこの明かりが
安心感と心地良さをくれる。
春の夜風に吹かれて星は静かに揺れる。

あとは雲のベッドさえあれば最高だな。
そう思いつつ星を撫でながら家に帰ることにした。
星も帰るのか静かに真っ黒な空を目指して浮かび上がった。

語り部シルヴァ

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