語り部シルヴァ

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4/22/2025, 10:20:59 AM

『big love!』

「はい!どーぞ!」
むふーと彼女は誇らしげに両手を広げて構えている。
尻尾があれば絶対に振ってそうだ。

ふらふらと吸い込まれるように彼女の前で
膝から崩れ落ちて全体重を預ける。
わっと驚いた声がしたがすぐに頭を撫でられる。
髪の毛が彼女の手によってわしゃわしゃと音を立てる。
雑な撫で方だが、そこが妙に安心する。

「ふふ、お疲れ様。」
柔らかい肌に優しい手、甘い声が疲れていた体に染みる。
同じ石鹸を使ってるのに彼女特有のいい匂いがする。

「...ありがとう。」
「いーよ。そんな君が大好きだからさ。」
体を起こし彼女を抱きしめる。

「俺も、大好き。」
彼女から微笑んでありがとうと強く抱き締めてくれた。

語り部シルヴァ

4/21/2025, 10:22:13 AM

『ささやき』

「ほら、我慢しないでさ...」
「い...嫌。折角ここまで我慢できたのに...」
優しさの裏にある誘いが私の決心を揺るがす。

「頑張る君も素敵だけど、たまには許してあげなよ?」
この人の声はどうしてこうも自分を許したくなるのか...
いや、ダメだ。ここで許せば自分が頑張ってきた意味が...

「僕は好きなことを好きなだけする君も見てみたいなあ」
あー...ダメだ。ずっと私が折れるまで続ける気だ。
...明日からまた頑張ろう。

諦めてポテチの袋に手を伸ばす。
「じゃあ、コーラ持ってくるね〜」
満足気な声で映画鑑賞の準備が始まる。

ダイエット...明日からちゃんとやります。
そんな反省の念を込めてポテチの袋を開ける。
好きなコンソメの香りが反省の心を吹き飛ばした気がした。

語り部シルヴァ

4/20/2025, 11:59:54 AM

『星明かり』

今日の夜はいつもの静けさが抑えられている気がする。
暖かくなっていくにつれて夜も少しずつ元気さを取り戻していく。
もう風呂上がりも暑くなって、
薄着で外に出ると風が心地よく感じる季節になった。

この田舎は夜になると本当に真っ暗だ。
視界は暗く、家の明かりから少しでも離れると
暗闇に飲み込まれる。
あとは獣の声と草が風で擦れる音。
暖かくなってきてから賑やかになってきた。

何も無くて暇だが、月が生えない夜にだけ
不思議なことが起こる。
家から離れて少し歩く。
右も左もわからなくなる場所まで歩くと、星々が落ちてくる。
その点々と広がる星が地上を照らす。

奇妙な出来事だが、今では優しいこの明かりが
安心感と心地良さをくれる。
春の夜風に吹かれて星は静かに揺れる。

あとは雲のベッドさえあれば最高だな。
そう思いつつ星を撫でながら家に帰ることにした。
星も帰るのか静かに真っ黒な空を目指して浮かび上がった。

語り部シルヴァ

4/19/2025, 10:18:28 AM

『影絵』

光を当てる。
両手をパーにすれば蟹。
一件不規則なオブジェクトも森の中に立つ鹿に...
光という対象的なものの力を借りて影絵は成り立つ。
改めて影絵とは不思議なものだ。

僕は影絵のアーティストとして活動している一般人だ。
世間は趣があるとか考察のしがいがあるとコメントが来る。
そんなもの僕の作品には無い。
ただ自分の中にある黒い何かをそのまま
作品として出しているだけ。
もし考察してくれたコメントが納得するようなものだったら
僕のこの黒い何かの答えは出るんだろうか。

僕の心にある影も光を当てれば何か見えるのか...
そう思いふと閃いて病院へ行く。
心にある黒い何か...

医師に尋ねて検査をしたあと、医師から一言。
「いやー、綺麗なですね。
こんなに綺麗なレントゲンは見たことないですよ。」

語り部シルヴァ

4/18/2025, 10:42:10 AM

『物語の始まり』

私なんかが...今までそんな人生だった。
誰かが私より主役になってて、私はいつも脇役。
諦め半分、私もあんなふうになれたらなと何度も思った。

そう、ずっと願っているばかりだった。
何気ない日々が続く中、私の目の前で泣いている子供がいた。
転んで怪我をしたのか、
膝は赤くなり見渡す限り親はいないようだ。
助けてあげたい...けど...
スマホの時間を確認する。
目的地まで15分。この子を助けると
面接は間に合わないだろう。

...遠くで肩を落とし子供に歩み寄る。
「大丈夫...?」


「おねーさんありがとう!じゃーねー!」
その後無事に子供は笑顔でどこかへと去っていき、
人混みの中消えていった。
事が解決した時には既に予定の30分オーバーだった。
電話で遅れたことの謝罪と
今から向かうことを電話したところ、
「面接は結構です。お疲れ様でした。」と
一方的に切られてしまった。

私なんかの人生の一部が失敗に終わるより
あの子が笑顔になって良かった。
少しでも主役にしてくれた子供の笑顔を思い出す。

また...また、次頑張ればいいじゃん。
私の中の私は珍しく背中を押してくれた。
そんな何かが変わったお昼時だった。

語り部シルヴァ

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