『みかん』
手がかじかむ。
あかぎれになりそうな指にみかんの汁が染みる。
口内炎ができてるから口の中も染みるんだろうなあと
思いつつみかんを剥き続ける。
あっという間に指は黄色になっていく。
地元で取れたみかんを農家の方がおすそ分けしてくれた。
コタツにみかん。うん、冬って感じ。
みかんは好きだがこの手でスマホやら布団やら触るのは
イヤだからそういうところだけは苦手かもしれない。
食べる分剥き終わったから早速1口。
果汁の優しい酸味と引き立つ甘みが最高だ。
地元はドが付くほどの田舎だがこのみかんだけは
どこの場所でも引けを取らないと思える。
けれど口内炎が染みる。
あー染みる。早く治ってくれ。
みかんを最大限楽しめないじゃないか。
それでも口に運ぶみかんのスピードは変わらない。
コタツにみかんの組み合わせは口内炎ごときに
止められないんだ。
語り部シルヴァ
『冬休み』
冬休みはいつもそんしている
と冬休みが来るたびぼくは思う。
夏休みに比べて短い。
お正月が終わったらすぐに学校が始まる。
夏休みみたいにしゅくだいはあるしのんびりできる日は
あっという間に終わってしまう。
どうせなら12月から1月の間が
休みになればいいのにと毎回思う。
それにみんなお正月であそべないからよけいにヒマに感じる。
休みは長いといいけどみんなに会えないのは
ちょっと寂しいなあ...
カレンダーを見て学校まであと何日か数えては
わがままとさみしさがケンカする。
まーいっか。おひるねでもしようかな...
そう思ってねころがるとお母さんがやってきた。
「まーたそんなゴロゴロして、勉強は終わったの?」
今終わったところだよーと言いつつもなにか言われるのはイヤだから起きて勉強机にすわることにした。
語り部シルヴァ
『手ぶくろ』
「...お前、また忘れたのか?」
「はい!今日も忘れました!」
にっこにこの笑顔で後輩は元気よく返事する。
雪が降る中この馬鹿は手袋をしょっちゅう忘れる。
「だから先輩...今日も貸してくださいっ!」
そして毎回手ぶくろを貸してくれとせがむ。
だからこのやり取りもほぼ毎日だ。
少し赤くなってしまった手を見てダメとは言えず
ため息をつきながら次は忘れるなよと渡すのもいつもの事だ。
そうやって手ぶくろをもらって喜ぶ後輩を見るのも
日課になってきた。
ある日後輩用に手ぶくろを渡すと
少し悲しそうな顔でお礼を言ってきた。
勝手に決めたからデザインが気に入らなかったのかと
聞いてみたが後輩はなにか引っかかるようにボソボソと
呟いていたが聞こえなかった。
じゃあ今度一緒に買いに行こうと言うと慌てて顔を横に振る。
どうしたのかと後輩は震えた声で答える。
「せ、先輩の手ぶくろが良いんですよ...!!」
そんな後輩の顔は手よりもずっと真っ赤だった。
語り部シルヴァ
『変わらないものはない』
工事中の看板と掘削機の音が乾いた空気に響く。
最近家からも工事の音が遠く聞こえてきたが、
ふと散歩に出かけたタイミングで工事現場を目撃した。
小さい頃よく親に連れてって貰った
この町の数少ない公園だった。
遊具も人気も無くなって老人ホームを建てるそうだ。
公園だった場所の入口付近で近くに住む奥様方が
井戸端会議をしている。
工事の音で聞こえないがこことは
全く関係の無い話をしているんだろう。
色んな思い出があったが...
人が使わなくなってしまったのなら仕方がない。
それでもやっぱり寂しさが無いとは言いきれない。
思い出がコンクリートに塗り替えられ、
工事の音に割られていくのが耐えられずイヤホンで
耳を塞いだ。
語り部シルヴァ
『クリスマスの過ごし方』
いつも通り出勤して、帰りのご飯はちょっと贅沢に。
ご飯でお金を散財してまあクリスマスだからいっかと
思いつつ明日も頑張ろうと床に就く。
...予定だったんだけどなあ。
外は猛吹雪でホワイトクリスマスどころじゃなくなった。
今年の猛吹雪は異常で朝から真っ暗でお昼時になっても
吹雪が止まなかった。
結局出勤どころか買い物にすら行けず、
今日という日を終えてしまった。
いつもの休日みたいな無駄に時間だけを
食ってしまった気がして嫌になる。
食べたかったのはチキンだったのに...
もう日も落ちた時に行ったところで無駄だろう。
いつものご飯とコーヒーを済ませて寝るまでの時間を過ごす。
破天荒な1日だった。
独り身だったからのんびりできたと考えればまあ...
ヨシとできるな。
そう思いつつ、外の景色を眺めながら
明日の準備をすることにした。
語り部シルヴァ