『手ぶくろ』
「...お前、また忘れたのか?」
「はい!今日も忘れました!」
にっこにこの笑顔で後輩は元気よく返事する。
雪が降る中この馬鹿は手袋をしょっちゅう忘れる。
「だから先輩...今日も貸してくださいっ!」
そして毎回手ぶくろを貸してくれとせがむ。
だからこのやり取りもほぼ毎日だ。
少し赤くなってしまった手を見てダメとは言えず
ため息をつきながら次は忘れるなよと渡すのもいつもの事だ。
そうやって手ぶくろをもらって喜ぶ後輩を見るのも
日課になってきた。
ある日後輩用に手ぶくろを渡すと
少し悲しそうな顔でお礼を言ってきた。
勝手に決めたからデザインが気に入らなかったのかと
聞いてみたが後輩はなにか引っかかるようにボソボソと
呟いていたが聞こえなかった。
じゃあ今度一緒に買いに行こうと言うと慌てて顔を横に振る。
どうしたのかと後輩は震えた声で答える。
「せ、先輩の手ぶくろが良いんですよ...!!」
そんな後輩の顔は手よりもずっと真っ赤だった。
語り部シルヴァ
12/27/2024, 1:23:30 PM