『ベルの音』
綺麗なベルの音が3回鳴る。
空は快晴、式は順調に進んでいる。
cmやドラマなどでよく見る光景が今目の前で流れている。
いとこの結婚式。
大人になってから莫大な金額を使うと聞いた時は
頭がショートしてしまったが、
実際に見るとその金額分以上の価値があるなあと思った。
まあ...自分が開いた結婚式じゃないから
そう思えるのかもしれないが...
本当は使ったお金についてとか
今後についてそれどころじゃないかもしれない...
まあ今はこの幸せな時間に浸れているといいな...
自分はあんなふうに誰かと結婚することは無いと思ってるし
貯金も式を開けるほどの余裕は無い。
けれど、もしそんな自分でも愛してくれる人がいるなら...
きっと死ぬ物狂いでお金を集めるかもしれない。
そんなもしもの世界も
いとこの眩しい姿に薄れて消えていった。
馬鹿げた悩みより今は身内のこれからの幸せを祈ろう。
そう思いつつ微笑み合ういとこたちを見守るように眺めた。
語り部シルヴァ
『寂しさ』
最近ネガティブになることが多い。
街ゆくカップルに嫉妬したり些細なことで
モヤッと来たり夜が急に怖くなったり。
これはあれだろう。『人肌恋しい』と言うやつかもしれない。
いや、そんなことは無いはず...
ずっと...今までずっと1人だった。
だからそんな事思うのはおかしい話だ。
確かに最近趣味が合う友達が出来た。
いつもはすぐ離れていってしまうのに、
長い付き合いになりそうだ。
だから...?
そんなちょっと浮かれている自分に嫌気がさす。
それと同時に気づいてなかった自分の気持ちに
正直になると余計に外の寒さが染みる気がする。
...人肌恋しい...のか...?
はぁ。こうなったらあの友達に責任取ってもらおうかな。
スマホを取り出して友達に連絡する。
"ねえ、クリスマスって空いてる?"
寒い中ただ1人、寒さを上書きするような熱を
帯びていただろう。
語り部シルヴァ
『冬は一緒に』
暖房に加湿器、そしてコタツ...
コタツにはみかんを3、4個添える。
早速コタツに足を入れる。
熱くない程度にじりじりする熱が伝わる。
少し古いコタツだが壊れていないようで安心する。
冬はやはりこうでなくちゃ。
背中が肌寒いのでブランケットをかけて手はコーヒーを入れたカップで温まる。
暖房を消しても不思議と寒さを感じない。
こうなってしまってはコタツという牢獄の出来上がり。
もうコタツからは出られない...
体を伏せぬくぬくとしているとお腹周りがさらに暖かくなる。
起こして見てみると飼い猫がふとももの上で丸まっている。
愛らしい姿と優しい温もりが寒さを完全に吹き飛ばす。
今年の冬も一緒に過ごせてよかった。
猫も同じ気持ちなのか喉を上機嫌にゴロゴロと鳴らしていた。
語り部シルヴァ
『とりとめもない話』
犬が吠える。
帰り道の夕焼け空が赤くなる。
子供たちが高い声をあげて家へ帰る。
それを見たカラスがガラガラ声で去っていく。
野良猫が媚びる。
辺りに晩御飯の香りが漂う。
そんな匂いでお腹が空く。
空はどんどん暗くなっていく。
帰ろうかな。
スマホを覗く。
眩しくて目を狭める。
もういいや。スマホをポケットに入れて歩き出す。
この話にオチもない。おしまい。
語り部シルヴァ
『風邪』
うつらうつらとしていた意識が体温計のアラームで
少し目が覚める。
38°...完全に風邪のようだ。
この時期だからもしやとは思っていたが
本当に風邪を引くなんて...
喉が痛い。熱があるくせに寒い。視界が少し歪む。
冬に風邪を引くと決まって小さい頃を思い出す。
静かな外に加湿器の静かな音、お母さんが
すりおろしてくれたりんごの味。
あのりんごの味を超えたすりおろしりんごは今までない。
お母さんが私を思ってすりおろしたりんご...
きっと親の愛情なんかがあったんだと思う。
大人になってもまた親に甘えたいな...
なんて口が裂けても言えないから
自分で加湿器とりんごを準備し始めた。
語り部シルヴァ