『光と闇の狭間で』
冷たい風の感覚はほぼ無く、
汗が自分の輪郭をなぞるように落ちていく。
足の疲れも走っていくうちに地面を踏みしめる感覚しかない。
あと1メートルでも遠くへ走るんだ。
そう思いながら真っ暗な河川敷を走る。走る。
まだ...まだ走れる!もっと、全力で...!
そう自分に言い聞かせて走っていると
セットしていたタイマーが鳴る。
鳴ると同時に走るペースをゆっくり落として足を止める。
熱の篭った息は白くなり空へと溶けていく。
今日も走りきった。体を冷やさないうちに帰ろう。
来た道を戻ろうとすると背中が少し温かくなる。
振り返ると太陽が顔を出してきた。
ずっと暗かった部分をゆっくりと明るくしていく。
...陽の光が冷めようとしている体も温めてくれる。
半身が暖かく、半身が冷たい...
本当は早く帰って体を冷やさないようにしないと
いけないとだけど...
この瞬間が特別に感じて離れたくなかった。
語り部シルヴァ
『距離』
「それじゃあ今日はこの辺で。」
「はい、ありがとうございました!」
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい!」
ボイスチャットを切り一息つく。
リアルでは友達のいない僕だがネットだと友達ができた。
同じ趣味を持つ仲間とゲームする日々はとても楽しい。
リアルで友達になれたなら一緒にご飯行ったり
ゲーセンで遊べたりできたのかと考えると
ゲームで繋がれたのは少し残念かもしれない。
電源をオフにしたモニターを眺める。
声は近いし他人以上の距離感なのに、
どうしてこうも遠く感じてしまうんだろう。
もっと...この距離が縮まればいいのにな。
ゲームしてくれるだけありがたい話だなと
自分の中でまとめて寝る準備を始めた。
語り部シルヴァ
『泣かないで』
「僕と...結婚してください!」
君の前で膝をつき結婚指輪を見せる。
最近仕事ばっかりで忙しくも理解してくれて
いつも以上に尽くしてくれた。
休日ぐらいは手伝おうと動くも一緒に家事をしてくれた。
美味しいご飯を作ってくれたり優しくしてくれる君に
何をしてあげれるだろうか。
今後の人生の時間を全部君に捧げて、
できる限りの幸せを送りたい。
君がいいなら結婚して永遠に尽くしたい。
...震えているのがバレてないだろうか、
君はそこまで本気じゃないのかもしれない。
返答が怖い。けれど...それも受け入れないと
今後君を幸せにできる人にはなれない。
セリフを言い切ってひと呼吸おき君の顔を見上げる。
君は口元を手で押え泣いている。
...ダメだったかもしれない。
そう思い立ち上がろうとすると、君は震えた声で答える。
「...私でいいの?」
「君じゃないとダメなんだ。」
そう言いながら立ち上がると君は僕に抱きつく。
子供のようにわんわんと泣く。
あぁ...そんなに泣かないでくれ。
こっちまで泣いてしまいそうだ。
幸せなのに涙が出る...
こんな不思議な経験は今後あるのだろうか。
語り部シルヴァ
『愛情』
こちらに向かってくる足音を聞き取り、
玄関前まで走る。
きっとあの足音はあの人だ。
帰ってくると思うと待ちきれなくなって
玄関を行ったり来たりする。
もしかして聞き違いか...
そう思うと気持ちがしょんぼりする。
一旦部屋に戻ろうかな...
玄関のドアに背を向けた瞬間ドアが開く。
ダッシュで近づく...のを我慢してマットの上で座る。
「ただいま!遅くなってごめんね!」
"全然大丈夫だよ!"
"今日も帰ってきてくれて嬉しいな..."
"いっぱい遊んで!"
"お腹空いた!"
たくさんの感情に体が振り回される気持ちだ。
それくらいあなたが帰ってきてくれて嬉しいよ!
「あっはは。今日も寒いからお部屋行こ。」
頭を撫でてもらえるとしっぽが勝手に動く。
あなたの手は暖かいからずっと撫でて欲しい。
そんな思いをあなたにいつか伝えれたらいいな。
語り部シルヴァ
『微熱』
今日はやたらと寒いらしい。
けれど今日はむしろ日差しが暑いせいか秋風が涼しい。
カイロを体に貼ってしっかりと防寒対策が
できているからだろうか...
昨日はしっかりと布団に毛布を被ったはずなのに朝は
暑かったのか蹴り飛ばしていた。
寝相が悪いと風邪をひきかねないから気をつけないと...
しかし...今日は暖かいなあ...
天気予報のお兄さんは寒いと言ってたはず...
お母さんも上着がかかってるのを見てそんな薄着で大丈夫?
と心配していた。
そんな歳じゃないんだから...
そんなこんなで学校にたどり着き教室のドアを開けて
友達におはようと声かける。
友達は私の顔を見るやいなや心配そうな顔をする。
「ねえ...顔赤いよ?寒くない?」
友達の言葉に体が気がついたのか体からは
寒さと熱っぽさが額から感じ始めた。
語り部シルヴァ