衣替え
外を歩く人達は長袖を着ている人が増えた。
学生はカーディガンを、社会人はスーツを。
ここ天界も一応四季の変化はあって制服が長袖に...
なんてことはなく、長袖の制服なんて着てると
汗だくになるくらいに大忙しだった。
8月の終わり...夏休み明けからどうも仕事が殺到する。
人間界はみんな疲れているようで
こっちの世界に来る人が増えてきた。
それも不思議なのが悪人がほぼ居ないことだ。
こちらにやってきた人間は
根っからの真面目だったり人に優しくできる人間だ。
各々にそれぞれの人生がある。
一人一人の人生を見ながら天国か地獄かに送る仕事も
大変だが、それを案内するのも大変だ。
僕自身カーディガンが好きだから
早く着ながら下界を散歩できる時間が欲しい。
だから....辛いのはわかるけど、死ぬ前に一旦やれることは全部やっとこうね?
語り部シルヴァ
始まりはいつも
「ん"ん"。あー、あー。」
喉の調子を整える。
寝起きだと声があんまり出ないから念入りに。
朝が寒く感じるこの頃は特に。
やりすぎて逆に喉を痛めないように...
よし。録音ボタンを押して...
「おはよ。寒くなったね。風邪に気をつけてね。」
少し間を開けて録音ボタンを止める。
最後に自分の声を確認する。
...ここだけはどうも好きになれない。
でも気持ち悪い言い方になってないか、滑舌は大丈夫か。
ちゃんとした声を届けたいから我慢する。
よし、大丈夫そう。
録音した音声をメッセージに届ける。
朝起きて最初に聞く声は僕がいいと彼女は
いつも嬉しそうに言ってくれる。
その期待に応えるため今日も僕は
静かな朝を彼女よりも早く迎える。
語り部シルヴァ
すれ違い
よく兄とは仲がいいと昔から言われていた。
それを俺たち兄弟は誇りに思っていた...
だが俺たちが大人に近づいていくにつれて
接することも減ってきた。
その時に気づいた。
俺たちはお互いの好きなことや趣味、
考え方についてあまり知らないのでは...?と。
実際今の兄がどんな価値観を持っているのかは
偏見でしか知らない。
それからある日、事件は起きた。
兄は俺のためと言いながらも俺の大切なものを侮辱した。
そこから関係は修復することなく劣悪になっていった。
そこで俺は気づいた。
昔から仲が良かったわけじゃない。何も知ろうとしなかったからこそ喧嘩が起きなかった。
とうの昔から俺たちはどこかですれ違っていたようで、
偽りの仲の良さに誰も気付かなかったんだ。
語り部シルヴァ
秋晴れ
ふわっと香る金木犀。
少し吹く風は涼しく、太陽はただただ明るく空を照らす。
雲が少しある青空。
少し外の空気を吸おうと外に出た。
秋晴れと言うに相応しい外は歩いていても
眠たくなってしまいそうだ。
自転車で行こうと思ったけど今日は歩きで行こう。
のんびり道を歩くと色んなものが目につく。
赤く染まり始めた葉の色に沢山落ちているどんぐり。
最近暑いから忘れていたけど、10月の中旬。
もう秋がどんどん深まっていく。
そっからすぐ寒くなる...
今だけ楽しめる秋を噛みしめて歩き続けた。
語り部シルヴァ
忘れたくても忘れられない
「ごめん。やっぱり別れよ。」
そういって彼女...だった人は僕に背を向けて
人混みの中へと消えていった。
やっぱり...か。
そう思いながらもスマホを取り出し、
先程の相手の情報を全て消す。
写真、トーク欄、連絡先...綺麗さっぱり消した。
けれども心のモヤモヤは消えない。
さっきの人とは関係ないモヤモヤ。
昔お世話になった恋人がいた。
その人は恋愛だけじゃなく人生の価値観とか
色んなものを教えてくれた。
結果的には考え方の相違で別れることになったが、
その人だけはどうしても消えない。
写真を消した時には心が痛みトーク欄や連絡先を消した時には次の日まで泣いた。
それほどまでに僕の中のその人が強すぎて
他の人が霞んでしまう。
好きと言ってくれる相手と付き合えば変われるかもしれない。
いつかあの人を忘れて新しい思い出が芽吹くかもしれない。
そんな期待を勝手にしてダメだったら期待してなかったように心が透明になる。
今も頭の中であの人が笑う記憶が再生されている。
それほど貴女が脳裏にいて剥がれないんだ。
語り部シルヴァ