夜景
少し遠出をして帰りが遅くなる時、
お父さんがいつも言っていた。
「お出かけは帰るまでがお出かけだ。
普段行かない道も行きと帰りでは景色が変わる。
特に夜は電気がイルミネーションのように明るくなる。
この景色を見るのもお出かけのいいところだ。」
疲れて寝てしまったあとにいつも聞いていたその言葉は朧気ながらも覚えれるほどに片隅に残った。
あれから数十年。俺は車を買った。
取引先が少し遠く、会社に寄らずに
このまま直帰することにした。
随分と話し込んでしまい、退勤時間はとっくに過ぎていた。
今日が金曜日で助かったと思いながら車を走らせる。
日はどっぷり沈み景色は夜景へと変わる。
ふと父親のあの言葉がよぎった。
少し速度を落として安全運転で景色を横目に車を走らせる。
お出かけじゃないが、なんだか懐かしい感じを覚えた。
お父さん。お父さんのおかげで今も夜景を見るのが好きだよ。
語り部シルヴァ
花畑
コスモスの花を見る度おばあちゃんちの花畑を思い出す。
花畑...と言うには少し規模が小さいけど、
それでも1輪1輪綺麗に咲いていた。
特に肥料や水の量を考えて与えていたわけでもなく、
ほとんど自然に綺麗に咲いたらしい。
風で揺れる花びら、ふわっと香る優しい匂い。
花に興味の無い私でもこの花は大好きだ。
そんな話をおばあちゃんにすると、
なんとコスモスの押し花で作った栞をくれた。
おばあちゃんの綺麗な花で作られた栞。
それまで読書をしなかった私が本を読み始めた時の
お母さんの驚いた顔は今でも笑ってしまうくらい覚えてる。
それくらい花畑といえばおばあちゃんちのコスモスが
結びついている。
またおばあちゃんに会いに行こう。
一緒に花畑を眺めながらお喋りしたいな...
語り部シルヴァ
空が泣く
曇り空にゴロゴロと雷の音。
随分と機嫌が悪そうだ。
そう思い焦りながら走る。
案の定雨は降り始めた。
嫌なことがあったのかは知らないが、
もう少し我慢して欲しかった。
今よりもっと早走ろう。もっと早く、もっと...
...いや、疲れるだけだ。もう諦めた。
ただでさえ仕事帰りで疲れていたんだ。
もうどうでも良くなってしまった。
空を見上げる。空は泣いている。
わかるよ。むしゃくしゃしたり辛いことがあったら
泣きたくなるよね。
今は存分に泣けばいい。
そう思いながら空を見上げていると、
土砂降りの勢いは増した。
しまった。空を甘やかしてしまったか。
語り部シルヴァ
君からのLINE
LINEの通知がなり急いで携帯を開く。
...クーポンの通知だ。
ため息をついてマナーモードにしたスマホを
ポイッとベッドに投げる。
最近気になる人ができた。
頻度は少ないものの毎日LINEしてくれる。
趣味や価値観がやたらと合うものだから話すのも楽しい。
だけど連絡が来た瞬間に返信するのはキモがられるだろうか。
そう考えてると不安になってマナーモードにして
すぐ手に取れる場所から遠ざけたわけだ。
...数分経ってスマホを手に取りロック画面を開く。
君からの連絡は来てなかった。
ため息をついてスマホのマナーモードを解除した。
やっぱり君からのLINEはすぐに気づきたい。
君との時間を少しでも作りたいなんて言えば
君は笑うだろうか。
そう思いながら真っ暗なスマホの画面を見て
またため息をついた。
語り部シルヴァ
命が燃え尽きるまで
あれからどれくらいが経っただろうか。
戦いが始まり、互いに消耗する一方なのにそれでも自陣のために命を捨てて相手を倒そうと潰れ合う。
鎧はボロボロ、盾も粉々になり槍と腰に備えた刀のみ。
もう受け止めることなんてできない。
ただ迫り来る敵を突き、切りつけ、命を刈り取る。
骨が折れようが手が無くなろうが目を潰されようが、
怯まず敵を倒すことだけに集中しろ。
少しでも死んだ仲間のために、殿のために...
与えられたこの命が燃え尽きるまで滾らせろ。
俺は殿の未来を繋ぐ殿の右腕だ。
前方の敵を見つけ、震える足で大地を蹴り斬りかかった。
語り部シルヴァ