→短編・齟齬
居酒屋で、二人の女性が飲み交わしている。
「あ~、マジで仕事辞めたい〜」
「今日だけで3回は聞いてるわ」
「辞められんもん〜。言論の自由くらい許してよ」
「もし宝くじの1等が当たったとしたら、仕事辞める? 何したい?」
「もちろん仕事は即ヤメ。で、海外に行ってぇ、キャンピングカー買ってぇ、目的地無しのその日暮らし。アメリカとか大っきい土地の分かれ道でさ、右行くも左行くも、その日の気分」
「あ~、それって未知だね。未知の交差点」
「どうした? どうしてそんなにクーってなってんの? 普通に交差点って道にあるよね?」
「深いなぁ〜。交差点に未知がある! 哲学極まってんじゃん」
「て、哲学?? そんな話、してたっけ? じゃあ自動車教習所はアテナイの学堂ってこと??」
「未知(↘)?」
「道(→)??」
「「ん?」」
テーマ; 未知の交差点
→処世術
道路脇の電信柱の陰に、
ひょろりと茎を伸ばしたコスモス。
仲間はおらず、一輪だけ。
そよ風にそよぎ、
自転車の車輪が巻き上げる風塵に揺られ、
自動車の排ガスになびく。
ピンクの花がフラフラと右へ左へ。
まるで八方美人のように。
テーマ; 一輪のコスモス
→うら寂しい
降り積もった落ち葉の中に
無くした恋を探す
もちろん知ってる
そんなところに落ちてはいない
でも、探すフリだけでもしていないと
どうしようもなく心が疼くのだ
テーマ; 秋恋
→純粋な無償の愛
推して推して推しまくる!
あっ、無償じゃねえな。
かなり課金。
テーマ; 愛する、それ故に
→「た〜まね〜ぎさん♪」
玉ねぎを切るとき、私はいつも思い出す。
「た〜まね〜ぎさん♪」
その声は、呼びかけるような、歌うような調子なのだが、あまり抑揚がなく淋しげだ。
子供時代の友人から聞いた話だ。彼女の母親が玉ねぎを切るときに必ずこのように口ずさむのだと。
「なんか寂しそうやね」
「せやろ? しかもキッチン、ちょっと暗いねん」
そんな会話を交わしたものだから、私の脳内に「玉ねぎを切る=暗い作業」というイメージが固定化してしまった。
そしてその強烈なイメージは、あれから随分経った今でも消えることなく、なんなら自分で口ずさむほどに、残っている。
「た〜まね〜ぎさん♪」
真っ二つに切った玉ねぎの真ん中、静寂が隠れている。
テーマ; 静寂の中心で