一尾(いっぽ)in 仮住まい

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9/8/2025, 2:10:23 PM

→「仲間になれなくて……」

ん? どうしたん? 
なんの仲間になりたかったんか知らんけど、エライ寂しそうやなぁ。
そんなに仲間が欲しいんやったら、私と2人でボッチ会でも作ろか?
あ~、でもボッチが集団になったら、ボッチちゃうんちゃう? ごめんごめん、チャウチャウちゃうんちゃう構文やってもうたわ。
なんなん? めっちゃ笑うやん?
なんで笑われてんのかよくわからへんけど、元気になったんやったら、まぁ良かったわ。


テーマ; 仲間になれなくて

9/7/2025, 5:56:58 PM

→雨は、もう終わり

しとどに濡れた黒髪を伝う水滴が
君の輪郭をなぞって
地面へと吸い込まれてゆく

僕は君の細い体を両手で包みこんだ
君の吐息が僕の耳元を温める
雨上がり
僕たちは、もう泣かない


テーマ; 雨と君

9/6/2025, 4:52:14 PM

→学生生活、
  それを暗黒時間と私は呼んでいた

あの苦痛しかなかった時間
存在を消したくて
息を殺して、やり過ごそうとした

ここには誰もいないのだ
ここに私はいないのだ
早く過ぎ去れ、暗黒時間

授業よりも、休み時間が辛かった
昼休みは、地獄だった
笑い声は、いつでも私から遠い

思い返せるほどの記憶もない学生生活
重苦しい感情の坩堝
甘酸っぱい思い出など皆無
永遠に楽しい気持ちになどなれない
そんなことを思っていたあの頃

あれから何年も経って
私は学校から離れた存在になった
社会人というヤツだ
そして相変わらずグチグチ悩んでいる

しかし
一つ分かったことがある
生きてるうちに『永遠』なんてない、と
根暗な学生だった私でも大人になった
今でも息を詰めることもあるけれど
自分なりの対策を身につけた

時間は流れる
人がそこに留まることはない

誰もいない教室を願う人よ
時間はちゃんと過ぎて行くからね


テーマ; 誰もいない教室

9/5/2025, 4:06:00 PM

→短編・もつれ

 私は、横断歩道で立ち止まった。信号は、赤。
 私の前を車が横切ってゆく。なぜなら青信号だから。ちゃんとルールを遵守していれば、事故が起こることはない。
――俺たちって価値観が合わないよね。
 ちょっとした意見の食い違いで、どんどん広がっていった私たちの感情的なほころびについて、彼はそんなふうに評し、用事があることを思い出したと私をカフェに残して去っていった。
 ついさっきのことだ。カフェで落ち合った後で映画に行く予定だった。デートの日に用事を入れるかい? もう、最悪だ。
 信号が変わる。私は横断歩道を渡る。車道は赤信号なので、車は停車中。
 粛々と日常。素晴らしきかな、信号機。
 私たちにも信号機があったらよかったのに。そしたら、今頃は映画を観てたのかなぁ。

テーマ; 信号

9/4/2025, 2:41:15 PM

→短編・勇気

その出会いは突然で、僕は言葉を失った。
彼女は、夏の暑さも満員電車の人いきれも、無関係みたいな涼しい顔をしていた。石鹸みたいな女の子。
同じ電車に乗り合わせた僕は、彼女の背中から目が離せない。
あぁ、どうして今日この時に、出会ってしまったんだろう? いや、今日だから、彼女が気になったのか? 
僕は、なんとか彼女に話しかけようとした。
言うべき言葉は、知っている。なのに、喉に貼り付いた言葉が、僕の口を出ることはなかった。
彼女は、次の駅で降りていった。
僕は彼女の背中を見送った。
夜になっても、彼女を忘れることができない。
僕にあと少しの勇気があれば、声をかけることができたのに。
「背中にデカい蛾が止まってますよ」と……。

テーマ; 言い出せなかった「 」

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