→「仲間になれなくて……」
ん? どうしたん?
なんの仲間になりたかったんか知らんけど、エライ寂しそうやなぁ。
そんなに仲間が欲しいんやったら、私と2人でボッチ会でも作ろか?
あ~、でもボッチが集団になったら、ボッチちゃうんちゃう? ごめんごめん、チャウチャウちゃうんちゃう構文やってもうたわ。
なんなん? めっちゃ笑うやん?
なんで笑われてんのかよくわからへんけど、元気になったんやったら、まぁ良かったわ。
テーマ; 仲間になれなくて
→雨は、もう終わり
しとどに濡れた黒髪を伝う水滴が
君の輪郭をなぞって
地面へと吸い込まれてゆく
僕は君の細い体を両手で包みこんだ
君の吐息が僕の耳元を温める
雨上がり
僕たちは、もう泣かない
テーマ; 雨と君
→学生生活、
それを暗黒時間と私は呼んでいた
あの苦痛しかなかった時間
存在を消したくて
息を殺して、やり過ごそうとした
ここには誰もいないのだ
ここに私はいないのだ
早く過ぎ去れ、暗黒時間
授業よりも、休み時間が辛かった
昼休みは、地獄だった
笑い声は、いつでも私から遠い
思い返せるほどの記憶もない学生生活
重苦しい感情の坩堝
甘酸っぱい思い出など皆無
永遠に楽しい気持ちになどなれない
そんなことを思っていたあの頃
あれから何年も経って
私は学校から離れた存在になった
社会人というヤツだ
そして相変わらずグチグチ悩んでいる
しかし
一つ分かったことがある
生きてるうちに『永遠』なんてない、と
根暗な学生だった私でも大人になった
今でも息を詰めることもあるけれど
自分なりの対策を身につけた
時間は流れる
人がそこに留まることはない
誰もいない教室を願う人よ
時間はちゃんと過ぎて行くからね
テーマ; 誰もいない教室
→短編・もつれ
私は、横断歩道で立ち止まった。信号は、赤。
私の前を車が横切ってゆく。なぜなら青信号だから。ちゃんとルールを遵守していれば、事故が起こることはない。
――俺たちって価値観が合わないよね。
ちょっとした意見の食い違いで、どんどん広がっていった私たちの感情的なほころびについて、彼はそんなふうに評し、用事があることを思い出したと私をカフェに残して去っていった。
ついさっきのことだ。カフェで落ち合った後で映画に行く予定だった。デートの日に用事を入れるかい? もう、最悪だ。
信号が変わる。私は横断歩道を渡る。車道は赤信号なので、車は停車中。
粛々と日常。素晴らしきかな、信号機。
私たちにも信号機があったらよかったのに。そしたら、今頃は映画を観てたのかなぁ。
テーマ; 信号
→短編・勇気
その出会いは突然で、僕は言葉を失った。
彼女は、夏の暑さも満員電車の人いきれも、無関係みたいな涼しい顔をしていた。石鹸みたいな女の子。
同じ電車に乗り合わせた僕は、彼女の背中から目が離せない。
あぁ、どうして今日この時に、出会ってしまったんだろう? いや、今日だから、彼女が気になったのか?
僕は、なんとか彼女に話しかけようとした。
言うべき言葉は、知っている。なのに、喉に貼り付いた言葉が、僕の口を出ることはなかった。
彼女は、次の駅で降りていった。
僕は彼女の背中を見送った。
夜になっても、彼女を忘れることができない。
僕にあと少しの勇気があれば、声をかけることができたのに。
「背中にデカい蛾が止まってますよ」と……。
テーマ; 言い出せなかった「 」