→からっぽ。
コンチクショウめ!
私はバカだ。
彼はホストで私は客で。
それ以上があるハズもないのに、
知ってるのに、
……甘い期待を捨てきれない。
店を出たとき、財布が軽いとき、
もう二度と行くもんかと固く決心するのに、
翌日の夜にはソワソワしてしまう。
他の女に取られたくない。
ソイツが幾ら使うのか知らないけど、
私と居るときよりも楽しくしないで!
イヤだ、イヤだな。
どうして彼を好きになっちゃったんだろう。
トモダチは、これは恋じゃないってさ。
あぁ、そうかよ!
オマエにはわかんねぇだろ!
チクショウ!
空っぽだよ。
空箱。
空元気。
空返事。
この恋は、空恋。
テーマ; 空恋 (からこい)
→正直なところ……
海辺に出向く前は、気取って波音に耳を澄ませてみようと気合をいれるのだけれど、到着するや否やテンションが上昇して大はしゃぎ。
大人になっても、しっとり風情を愉しむことが未だにできない。
テーマ; 波音に耳を澄ませて
→清涼感
夏は暑い。
真夏の昼間に外に出たのが間違いだった。
頭上の太陽が憎たらしい。
近くの自然公園に逃げ込む。
アスファルトの地面から土の遊歩道へ。
天井には立ち木の枝葉。
たったこれだけのことで随分と楽だ。
思わず息継ぎのような深呼吸をする。
それまでダラダラと重かった足取りが、
少しばかり軽やかになる。
のんびり歩こう。
葉陰、何となく視界まで緑っぽく感じる。
ささやかな風が吹く。
樹木を渡る風は、青い匂いがする。
青い風が、背中に押す。
ふんわり、それに乗っかる。
「あ、追い風」
テーマ; 青い風 (あ おいかぜ)
→暑い〜!
暑い〜〜!!!
暑いの苦手やねん!
もう、アカン。
何処か涼しいとこに行きたいなぁ。
宇宙とか。
−270度!
どやさ、どやさ!
……どやさって、
まぁ、どうにもならんわな。
テーマ; 遠くへ行きたい
→短編・そしてクリスタルだけが残った。
「クリスタルもファミレス行く?」
「あ~、バイト。また今度」
俺は誘いを断って、バイト先に向かった。駅ビル内の居酒屋だ。
暑さと明るさの残る、夏の夕方。歩いているだけで汗が噴き出す。俺は去年の夏を思い出す。
去年の夏、彼女と海水浴に行った。覚えているのは、暑くて、人が多くて……、彼女がキレイだったこと。
彼女の濡れた髪から落ちる雫がクリスタルみたいだった。なんかすんげぇ感動して、彼女の肩先に触れる髪にフォーカスした写真に「クリスタル」ってタイトルでSNSに投稿した。恋のなせるムーディ荒業。
なんだかんだで、秋を迎えることなく彼女とは別れた。価値観の不一致とかいう、ありきたりの理由で。決してクリスタルが原因ではない。
ちなみに、クダンの投稿以来、俺はトモダチ連中から「クリスタル」と呼ばれるようになってしまった。
風化しない黒歴史だけが、残った。
テーマ; クリスタル