→短編・そしてクリスタルだけが残った。
「クリスタルもファミレス行く?」
「あ~、バイト。また今度」
俺は誘いを断って、バイト先に向かった。駅ビル内の居酒屋だ。
暑さと明るさの残る、夏の夕方。歩いているだけで汗が噴き出す。俺は去年の夏を思い出す。
去年の夏、彼女と海水浴に行った。覚えているのは、暑くて、人が多くて……、彼女がキレイだったこと。
彼女の濡れた髪から落ちる雫がクリスタルみたいだった。なんかすんげぇ感動して、彼女の肩先に触れる髪にフォーカスした写真に「クリスタル」ってタイトルでSNSに投稿した。恋のなせるムーディ荒業。
なんだかんだで、秋を迎えることなく彼女とは別れた。価値観の不一致とかいう、ありきたりの理由で。決してクリスタルが原因ではない。
ちなみに、クダンの投稿以来、俺はトモダチ連中から「クリスタル」と呼ばれるようになってしまった。
風化しない黒歴史だけが、残った。
テーマ; クリスタル
7/2/2025, 4:22:12 PM