→ひ弱なんですよ。
最後の声というものが、誰かとの別れに繋がることを指す言葉なら、人間未熟者の私には耐えられないので、そんなものは考えたくもない、です。
テーマ; 最後の声
→先だってのことでございますが……、
あなたを鼻白ませたあのお節介も、もしかしたら小さな愛の表れだったのかもしれませんね。
相すみません。お耳汚しを致しました。どうかお忘れ下さい。
テーマ; 小さな愛
→空
海のない内陸出身、且つ2階建てひしめく住宅街育ちの私にとって、空は切り取られた小さな破片だった。
旅行の移動手段で、初めてフェリーを利用した。
大海を割るフェリー。そして頭上に、空。
「空って広いな」としばらく見ていたら、首が痛くなった。
テーマ; 空はこんなにも
→子供時代は遥か遠い過去なので……
当時の夢を思い出すことは、古い地層を掘り起こす考古学者のお仕事と同じような労力が必要です。
琥珀に閉じ込められているかもしれないし、化石になっているかもしれない。もしくは炭化してボロボロかも。
……ところで、もしそれが叶っていたら、現役の輝きを保持しているのかしら?
テーマ; 子供の頃の夢
→短編・此処に居ること。
初めての恋が実ったとき、僕は宝くじの1等に当たるよりもラッキーだと思った。
彼女は中学校の同級生で、まるでファンタジー小説の妖精のように儚げで繊細な少女だった。
彼女は事あるごとに言った。
「どこにも行かないで」
どういう意味なのかはっきりしないまま、僕は頷いた。その約束に忠実であることを、彼女への想いの証にしようと心に固く誓った。
彼女は、大学進学を期に上京した。引っ越し当日、泣きながら彼女は言った。
「休みには絶対に戻ってくるから」
僕も泣きながら頷いた。列車が遠ざかり見えなくなるまで、僕はずっと手を振った。
あれから何年が過ぎただろう。彼女は戻ってこない。連絡先も分からなくなってしまった。
僕は友人知人に彼女のことを聞いて回ったけれど、誰もが版で押したように「知らない」としか答えなかった。
彼女は不誠実な人ではない。今も昔と変わらず妖精のような清らかな人だ。
だから僕は、どこにも行かないで、ここでずっと彼女を待っている。
テーマ; どこにも行かないで