一尾(いっぽ)in 仮住まい

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3/8/2025, 3:11:38 AM

→短編・文字ぐるみ

 控室でラララは悩んでいた。どうも仕事に熱が入らないのだ。
 ラララの仕事は、着ぐるみならぬ文字ぐるみを着て、人の軽やかな気分を代弁することである。何か良いことがあったとき、気分が上々のとき、もしくはハミングするときなどがラララの出番だ。
 就職したての頃は楽しかった。人のポジティブな面に花を添えるやりがいを感じていた。しかし長くこの仕事に携わるうちに疑問が生じてきたのだ。明るすぎやしないか、と。
 思えばこの仕事に就くとき、面接官はこんな話をしていた。
「感情を伝える仕事は非常に忍耐を要します。さらに一面特化の仕事なので離職率は高いです。実は先日もヨヨヨ担当者が精神的苦痛を理由に退職したばかりでしてね。そういつも悲しんではいられないと。あなたはラララですから少しはマシでしょうが……」
 感情表現には自分よりも他者を重んじる滅私奉公的な側面がある。小説でも映画でも中心はキャラクタであって、作者ではない。
「あーぁ、ムムムにしとけば良かったなぁ。もしくはニャニャニャとか」
 ため息に呟きを乗せたラララの背後にスタッフの声がかかった。
「あっ! ラララさ〜ん! もうすぐ東京◯ィズ◯ーラン◯のパレード始まるんで、準備お願いしまぁす」
「ラララ……」
 はいはいと返事を返そうとしたが、仕事スイッチの入った彼はもう「ラララ」しか発声できなかった。

テーマ; ラララ

3/7/2025, 1:11:18 AM

→短文・風は伝播する。

風は、
ウワサを、便りを、風船を、お台所の夕餉の支度を、花火の音を、小学校の校庭の土を、野外フェスティバルの興奮の声を、スズメのおしゃべりを、車のエンジン音を、鼻歌を、ラーメン屋のスープの香りを、
風は伝播する。
そして、心をツンツンと刺激する。

風は、
季節を、春風を、花びらを、蜂のさえずりを、
そして……ハッ、ハックション!!!

あっ、もうムリ、
花粉が鼻を刺激して……、洟が……――


テーマ; 風が運ぶもの

3/5/2025, 2:29:07 PM

→短編・So, you wanna know the outcome of the discussion with her?

You know, it's a universal truth that not every question has an answer, right?
Hey! Stop peeking at my phone!
What's wrong with me having a dating app on here?

テーマ; question


・2/5〜Oh my gosh! What should I do?〜の続き
  I'm so scared.
  My girlfriend just sent me a message
  saying,
  'We need to talk heart to heart.'
  I have a bad feeling about this. I'm
   really really freaking out!
   What should I do?

3/4/2025, 4:11:14 PM

→短編・約束破り

「たのもー!」
 約束破りがやってきた。その腰には黒帯ならぬ、テープ状のコーラグミ。頭にタケノコ型のチョコを巻き、手には長細いポテトのスナック菓子。防御用の盾に堅焼きのせんべいとは敵ながら心憎い。
 しかし私も負けてはいない。
 いや、負けたくない。
 もう負けるわけにはいかない!
 私は私と約束したのだ! オヤツ減らすって。ダイエットするって! だって、もうすぐ春やねんもん。セーターでごまかし、コートで隠す荒業ができひんようになるねんもん。
 さぁ、約束破りめ! 正々堂々、勝負じゃ!
  









   …………チョコ&せんべいループ技、憎し……
           あ、明日こそ!!!

テーマ; 約束

3/3/2025, 4:50:19 PM

→救い。

ひらりと心の垣根を飛び越えて、
するりと心の機微に嵌まり込むような、
そんな一文を模索する。

感覚の角度、情緒の震度、言葉の明度……。

模索しすぎて前後不覚、文筆の海に落っこちた。

沈まないよう藻掻いていると、アプリと言う名の灯台の、青いライトがひらりと頭上をかすめていった。
それに手を伸ばして、伸ばして、伸ばして、何とか岸にたどり着く。
息も絶え絶え、灯台を見上げて、
「ありがとう」


テーマ; ひらり

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