→中学校時代
授業が終わって、何となく居残って友人たちとダラダラ話す。人の少なくなった教室に、大笑いをばら撒いて。
どんな話だったかな? 細かい内容は覚えていない。内輪話だったと思う。仲間だけで作り上げた世界観を共有して笑い転げ、時に憤慨して。何の衒いもなく真っ直ぐに、希望と理想に輝く視野で正義と仁義とユーモアを元手に結束していた。飽きることなく、疲れることなく、あの熱量を懐かしく感じる。
クーラーなんてなかった時代。夏場は汗に構うことなく、タオル片手に大笑い。鋭く入り込む西日や寒さなど物ともせず冬の日々。
仕方なく、そろそろ帰ろうかと暗黙の了解で立ち上がる。
あの頃の私たちにとって、放課後は無敵時間だった。
テーマ; 放課後
→短編・闇一夜
真夜中、カーテンを下ろすようにまぶたを閉じる。
眠ろうと思った。
でも、眠れない。
そんな心当たりのない不眠が続いている。
理由があれば、楽なのだろうか?
たぶん、それはそれで苦しいだろう。
まぶたの裏、眼球は暇を持て余す。
仕方なくまぶたを開ける。
闇の中、あっという間に目が慣れて、「黒は300色あんねんで」なみに家具や置物の陰影を浮き立たせる。
駄目だと解っていて、スマートフォンに手を伸ばす。
闇に馴染んでいた目を瞬かせる。
昔は時計の音で過ぎていく時間を感じていたものだが、今では手元の小さな機器がその役割を果たす。
そんなことをしていたら、空が白み始める。
鳥の声がし始める。車の走る音が増え始める。
マンションならではの音の伝播で、何処か家のカーテンが開いたことを知る。
のろのろ立ち上がって私もカーテンを開ける。
一日が始まる。
テーマ; カーテン
→10 月10日
カレンダーを見て、私は衝撃を受けた。
漢数字とローマ数字の10。
↓ ↓
十 X
斜めに見ると
↓ ↓
ローマ数字 漢数字
つまり、
十月X日=X月十日
なんてこった……。
少し首を傾けただけで、ローマと日本が交錯しやがった。まったく、世界ってのは驚きと発見に満ちてやがるぜ、ヘヘ。
私は今、感涙している。
テーマ; 涙の理由
→短編・新番組の洗礼
「やぁ!! 僕は勇者ココ・ロオドル!! みぃんな一緒に踊ろうぜ!」
カラフルなジャージのような衣装に身を包み、派手なポーズを決めるニューヒーロー。
テレビの前に陣取っていた息子はゆっくりと私を振り返った。何が起こったのか説明しろと言わんばかりに大きな瞳が見開かれている。先週も説明したけど、やっぱりムリかぁ〜。
「あのね、冒険王ナカ・ナイモンはさ、泣き虫涙の秘宝を手に入れて、先週で冒険が終わっちゃったんだよ。今週からは……、何だっけ? そうそう、勇者ココ・ロオドルが一緒に踊ってくれるって」
2歳児のプニプニほっぺに、テレビのカラフルな色が写り込んでいる。赤、黄、青、などなど。勇者ココ・ロオドルのきらびやかな衣装だ。
腰をフリフリ、手をゆらゆら、勇者は踊っている。―っていうか、勇者っぽい話もなく、番組始まってずっと踊ってる。
「ほらほら、楽しそうだよ〜。一緒に踊ってみたら?」
無言のまま息子はテレビに向き直った。背中に警戒心が滲んでいる。可愛いよなぁ、ホント。
そしてなんだかんだ言っても、番組終わる頃にはすっかり馴染んでんだよねぇ。
「1年間よろしく、勇者ココ・ロオドルさん」とテレビに挨拶をする私の前で、さっそく小さな背中が徐々に揺れ始めている。
あら、すごい。勇者の踊りで、警戒心は退散一歩手前。ココロオドルの名は伊達ではないらしい。
テーマ; ココロオドル
→短編・ウワサ
ねぇねぇ、知ってる?
ある旅館のある部屋に泊まったらね、
平安時代に転生しちゃうってウワサ。
あっ、初めて聞いた?
そっかぁ〜。
えっとねぇ、旅館の名前は知らないんだけど、部屋の名前は覚えてるよ。
確か、『束の間』!
で、転生先、平安時代って言ったじゃん? 初期位置が固定で御息所っていう、天皇の休息所始まりなんだってさぁ。
肝心の生まれ変わりはね、天皇始まりのとか、女御始まりとか、その辺りはガチャ運とかとか。
ん? 帰ってきたヒトから聞いたのかって?
そんなの知らないよ、だからウワサなんじゃん。
テーマ; 束の間の休息