一尾(いっぽ)in 仮住まい

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8/19/2024, 3:09:06 PM

→名作探訪 第55回 (改稿2024.8.20)
  製折紙所『風景専科』の 
           『空模様』シリーズ
            
『風景専科』の折り紙は、社名が表すように風景に特化している。瞬間の風景を、専門の職人がマーブリングで写し取る。
刹那を閉じ込めた折紙は風景ごとにシリーズ化されており、『花模様』『水の旅』『宙と星』など様々。今回、紹介するのは隠れた名作『空模様』シリーズだ。
未明から深夜まで、これまで折り紙となった空模様は数知れず。
もしかすると、あなたが寂寞を覚えたあの日の茜色の空もシリーズの中に見つかるかも、知れない。

文房貝店、オソラインストアにて販売中


テーマ; 空模様

8/18/2024, 3:00:32 PM

→短編・失踪事件について

 本社1階のトイレの洗面台で私は髪を梳かしていた。他には誰もおらず、私一人だ。
 洗面スペースは、大きな鏡が向かい合い空間を広く見せている。同時に、どこまでも続く鏡の世界に、自分がサンドイッチされてしまいそうな落ち着かない気分を覚えた。
 ふと、後輩の言葉が脳裏をよぎった。
「本社1階のトイレ、合わせ鏡で怖くないですか?」
 そう言えば、子ども頃に噂話で12枚目の鏡に何か映るとか、引っ張られるとかあったなぁ。怖いもの見たさで手鏡を合せてやってみたけど、自分の顔と対面するばかりで、肝心の合わせ鏡の部分は見ようにも上手く見えなくて……あれ? 今、合わせ鏡の奥の方、何か見え―――

―カラン
 本社1階のトイレに櫛が落ちた。持ち主の姿はどこにもない。
 大きな向かい合う2枚の鏡が、お互いを反転しながら映し合う。鏡の虚空が繰り返される。
 その隙間に何か見えたなら、おいでくだちい。いらっしゃいませ。

テーマ; 鏡

8/17/2024, 3:49:26 PM

→いつまで続けるのか。

言い得て雑だと知りながらも作り続ける文章に、
止まぬ表現欲求の影
なけなしの才能を探して書き殴り、
意地の果に自己嫌悪  

何度も夢を破り捨て
何度も拾い集める
何度も、
何度も、
何度も……

テーマ; いつまでも捨てられないもの

8/16/2024, 3:21:43 PM

→短編・その覚悟

 誇らしさから「飲みに行こう」と誘われたのは久しぶりのことだった。
「すっかりくたびれたな」と苦笑するアイツは、昔とちっとも変わっていなかった。

「今まで何処に行ってたんだ」と訊くと、「お前が追い出したんじゃないか」と、アイツはあっけらかんと笑い飛ばした。
 20年ぶりの連絡について尋ねると、「お前がそう決めたんだろ?」と返してくる。
 
 下請け工場が多く集まる下町の居酒屋で、誇らしさとそんな話をした。
 ようやく腹が据わった。
 

――数日後、とある巨大企業による20年来のデータ改ざんについての内部告発のニュースが、世間を騒がせることになる。――

テーマ; 誇らしさ

8/15/2024, 7:19:24 PM

→名作探訪 第223回
   珈琲焙船『夜の海』の『ヨルノウミ』

珈琲焙船『夜の海』は、大きな外輪を船の側部に持つ外輪船だ。そのシルエットは巨大な手廻しコーヒーミルのようにも見える。
店名を冠するオリジナルブレンド『ヨルノウミ』は、珈琲好き垂涎の一杯として知られている。異なる四季の夜の海に落ちた星々を丹念にハンドピックし焙煎。純度の高い星々のかぐわしい香りは遠い宇宙を想起させる。抽出する水にもこだわっており、焙煎度合いにあわせた深度の塩抜き海域水を使用。同海域にセイレーンが多く生息することから『ヨルノウミ』の余韻は長く、しばしば耳に妙なる歌声を残すため、車の運転など眠気覚ましには不向きである。

住所不定
電語番号なし

テーマ; 夜の海

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