「…約束だよ?」
「分かってる分かってる」
「言ったからな?」
「ほら、早く位置に着かないと」
「くっ……」
「大丈夫だよ、死ぬときは一緒だ」
「その言葉、忘れるべからず」
「うぃっす」
奴は確かに言った。
よくよく思い返せば、やけに眩しい笑みだった。
なぁ、戦友よ。
死ぬときは一緒だと、そう言ったよな。
…………言ったじゃないか。
訓練でも、そう誓っただろう?
僕らはいつも、一緒だったじゃないか。
「…先に、いくなって…言ったじゃないかっ!」
息が切れる。それでも走り続ける。
不規則な呼吸。
足が限界を訴えている、
喉がスースーして気持ち悪い。
じわ、と涙がにじんだ。
「くそぉ……っ」
…嗚呼、ようやく君の姿が見えた。
今、そちらにいくから。
僕は泣き笑いのような、歪な顔で駆け出した。
もうやだ。
「ねぇ゛っ…ゼハッ、先にっ゛行゛かないでってスゥッ…言゛った!!!!」
「ごめん本番だし、あまりにも遅すぎて」
「ふざっ゛カヒュゥ…っけんなやっゴホッォェ゛」
持久走、ビリ(僕)とラス3(かつての戦友)の会話である。
え、もう1人抜いたの?マジで?
「そうかお前もなのかブルータスっ!」
も?
そうである。もう1人は年がら年中半袖のクセして今日だけここぞとばかりにジャージを着込む先生である!
ギルティ!
「そのネタ通じる人おる……?」
「うるさい僕は傷心のカエサルだぞ」
「あんまり通じないと思うな」
「じやあエーミールの
『そうかそうか君はそんな奴なんだな』
で。どう?伝わる?」
「懐かし~。ではそんな貴方にパピコを1本プレゼント」
「蓋の方では無いな?」
「そんな鬼畜なマネせんわ」
「じゃあ宥恕」
「いえ~い」
灰春(灰色の青春)の一幕である。
とりあえずパピコは美味しかった。
#約束だよ
…なんだい少年。僕の傘が気になるのかい?
…………ほう、いつも持ち歩くのに差していないから?
いつも歩きづらそうだからヒヤヒヤしてる?
ふふ、それはそれは、ご心配ありがとう。
それじゃあ、優しい君だけに教えてあげよう。
実はこの傘にはね…、
妖怪が閉じ込められているのさ!
こらこら、一気に胡散臭そうな顔をするんじゃないよ、全く。
妖怪なんて阿呆らしい?
……じゃあ、聞かないかい?
……………アハハ、素直でよろしい。
その名も妖怪アメフラシ。
──雨を降らせてポツポツ歩き、
───嬉しいときには虹をかけ、
─────悲しいときには風吹きゴウゴウ。
かんしゃく起こせば雷ドンドン!
……の、はぐれ者一匹がこの中にいるのさ。
どうするのかって?
この子は砂漠に連れて行って、
恵みの雨をパラパラ、シャンシャン
降らせてあげるのさ。旅がお好きらしいからね。
本当にいるのか?やぁ、君は疑り深いな!
まァ、疑うのも無理は無い。最近はここらじゃトンと見なくなったからねぇ。酸にやられるわ汚れは着くわで怒って降りてこなくなったのさ。
そうそう、最近異常気象多いだろ、アメフラシどもが怒っているんだよ。人間め!っとな。
そうだね、あの子達とて、幼き子どもは嫌いじゃないさ。
ガキじゃない?こりゃ失礼。
見てみたいなら、雨の日に空を見上げてみると良い。首を伸ばして、うんと目を凝らして、額や頬に雨がパタパタ当たるだろうけど、それでもじぃっと目を凝らしてごらん。雲の上から、アメフラシが手を振ってくれるかもしれないよ。
アハハ、ではね。
#傘の中の秘密
梅雨が、来ますね。
…………、いや、もう来たのか?
雨、雨ねぇ…
あんまり、好きじゃないです。
靴、濡れるでしょ、
服、濡れるでしょ、
つまりは濡れるでしょ。
差し方なのか、はたまたサイズなのか、
傘、全然仕事してくれないし。
そんで、トラックさんや、ちと気を遣っとくれ…
と思うのです。
ばっしゃんっ!です。
もしくはざっぱぁっっ!です。
水たまりを気にせず突っ込めなくなったのは、
いつからだっけ。
ピッチピッチチャップチャップらんらんらん!
あれだけ楽しかったのに、濡れるのがいや、子供っぽいから…。と遠ざかってしまった。
時の流れ…
モラル…
マナー…
公共の場での尊厳的なもの…
そういうものに染まってしまったのか…
(正しい成長です、おそらくは)
気分もじっとり、どんより。
洗濯物も乾かないし。
暗いし、
濡れるし
泥、踏むし。
靴とか子ども靴のごとく
キュッキュッ、キュッキュッ
って、音立てて恥ずかしいし。
濡れるし…。
だからでしょうか。
雨上がると、こう
必然的に気分浮上しません?
どん底に落としてから上げてくるスタイルですか?
……そ、そういうことだったり、します…?
あ、違う…そうですか。忘れてください。
でもまぁ、雨上がりは良い景色見られるし…
そこそこ、良いのかも…しれない。
雲の切れ間から日が差し込んで、
一条の光がはしごを伸ばして、
濡れた地面が反射して、眩しくて。
水たまりには真っ青が写って。
光度が上がって。
虹とか、見られるかもしれない。
雨上がりは…うん、なんか…好き、かも。
え、濡れたくないなら部屋にいなよって…?
…………………………………………………、ごもっとも。
#雨上がり
追記
水たまりには飛び込みませんが、傘クルクル回すのは全然現役です。あ、傘を友達のリュックにこっそりかけるのも、現役です。
……そこまで大人になりきれていないのでね。
「勝ち負けなんて」、と言うけれど。
でも、世の中たいてい、
…勝ち負け、あるよね。
大会、コンクール、受験、就職、エトセトラ。
人生勝ち組、負け組。
…何を持って、そう言うのだろう。
他人の目、尺度?学歴、性格、資格に性別。
僕たちは世の中に見られている。
自分でも、知らず知らずのうちに監視している。
ニコニコ笑っている裏で嘲笑って、下に見られていたり。
他人と比べて、優劣を付けたり。1人で勝手に勝ち負けを決めて、落ち込んで。嫉妬、なんかもしちゃって。
もっと、
こうしなきゃ、
ああしなきゃって、
目まぐるしい。
「あの子のほうが、出来てるでしょう?」
「なんで自分はできないの?」
自分のなかの声。
あれこれ悩んで、考えて、迷子になってしまう!
気にしてないよと笑いながら、実はバッチバチに気にしてたりするし。
これだから人間、たいへん面倒くさい生き物です。
だから、
「勝ち負けなんて」って笑い飛ばして、マウント合戦からすたこらさっさと抜け出せたら、生きるのもちっとは楽になれるんじゃあないかなぁ、と、思います。
……逃げではない!これは戦略的撤退なのです!!
なんちゃって。
それでもやっぱり、テレビのチャンネル争いとか、おやつのラス1で争ってしてしまうよね。なかなか上手くいかないもんだなぁ。
#勝ち負けなんて
どんな物語にもいつかは終わりが来る。
だんだん薄くなっていくページ、
あ、風に吹かれて、飛んでった。
好きなモノへの気持ちも、いつしか薄れて。
断捨離!とか言って今までの物語とさよならしたりね。
――好きだったキャラクターのグッズ
――友達と交わした手紙の束。
――あの人からもらったお菓子の缶、とか。
さよなら、ありがとう。
でも、きちんと思い出は大事に仕舞って、時々こっそり覗くんです。
あぁ、あんなに好きだったなぁ、
そうそう、こんなこともあったよね。
あの人、元気してるかな。
……なんて。
終わってしまうけれど、自分のの中に、きちんと物語が詰まっている。
途中でページが煤けてしまったり、ビリリと破けてしまっても。
「ハッピーエンド」だとか、
「めでたしめでたし」、
「こうして幸せに暮らしましたとさ」
があっても、おしまい、ではなくて。
実は見えないところで、続いてゆく。
もし、命が、終わってしまっても。
人生という、分厚い、分厚い本が閉じられてしまっても。
誰かの心に、残っていたら、片隅に、おいて貰えたら
いいなぁ。って思います。
あんな人がいたよ、
仲良かったんだよね~、
昔、好きだった。
友達、家族、先生、会社の上司、仲間、ご近所さん…
どんな形でも、いい。
名前が分からなくても、顔を思い出せなくても、いい。
生きてちゃ、誰かしらと関わっているんだから。
僕の物語が終わっても、そこから、また物語は始まるだろう。
続きは、きっと、残された誰かが紡いでくれる。
だから、ゆるゆると、生きましょう?
このくらいのお気楽さじゃないと、やってられないわ。
#まだ続く物語