幸せに
私の彼氏には死んだ婚約者がいる。
その人は私の姉だ。
彼は姉が本当に好きで、
私の告白への返事を数ヶ月も悩んでしまうほどだ。
付き合って同棲を始めてからも、
毎晩泣いているのを見ていた。
私のことを大切にしながらも、
姉のことを好きなことを知っていたからこそ、
結婚に踏み込めなかった。
でもそれがだめだった。
ある日彼が居なくなった。
三日三晩寝ずに探した。
警察にも捜索願を出した。
すると山の中でひとつの遺体が見つかった。
彼が居なくなってひと月たったある日、
気持ちが落ち着いてきて彼の部屋を片付け始めた。
するとひとつのメモが出てきた。
一緒にそっちで幸せになろうね。
ハッピーエンド
この世界では私がヒロイン。
可愛い顔に綺麗な髪周りから好かれる性格。
そしてイケメンな幼馴染。
こんな設定ヒロイン以外にありえない。
私の幸せな未来は保証された。
はずなのに、
あの子が転校してきてから変わった。
彼の隣の席になって彼と仲良くなって、
いつの間にか彼の隣にはあの子がいた。
それが羨ましくて妬ましくて少しからかった。
私の場所を奪ったんだから少しくらい良いでしょ。
ちょっとものを隠しただけ、
ちょっと無視しただけ、
なのになんで彼はあいつの味方をするの。
私と一緒にいたはずなのに私の彼なのに。
私がこの世界のヒロインなはずでしょ。
ねえ、私のハッピーエンドは何処に行ったの。
ないものねだり
人間誰しもないものねだり。
自分のないものを欲しがる。
だから私はあの子が欲しい。
僕に無いものを全部もってる。
可愛さもかっこよさも綺麗さも、
お金も地位も名誉も、
彼のことも。
欲しくて欲しくてしょうがない。
だから奪った。
彼女はだんだん醜くなって、
可愛さもかっこよさも綺麗さも、
お金も地位も名誉も
彼も失った。
なのにまだ彼女は美しい。
強くて芯があって自分を持っている。
僕あの子自身が欲しい。
好きじゃないのに
好きじゃないのに目で追う。
好きじゃないのに姿を探す。
好きじゃないのに考える。
好きじゃないのに名前を見て。
好きじゃないのに浮かれる、
好きじゃないのに会話をして。
好きじゃないのに笑う。
好きじゃないのに隣がいる噂を聞いて。
好きじゃないのに落ち込む。
好きじゃないのに真実を聞いて。
好きじゃないのに安心する。
好きじゃないのに。
好きじゃないのに。
好きじゃないのに。
好きじゃない"はず"なのに。
ところにより雨
今日は体育祭。
天気予報は外れて真っ青な快晴。
だったはずなのに、
目の前には大きな水溜まり。
古い校舎に打ち付けられる大量の雨の音は、
私たちの耳を塞いだ。
うわーんうわーん。
少し遠くを見ると小さな女の子が泣いていた。
考えるより先に体が動いた。
のと同時に隣にいた人も動きだした。
保育園から一緒の幼なじみ。
十歳から片思いの幼なじみ。
二人で走って女の子を間に入れてまた走った。
なんだか家族みたいだな。
ふざけたことを考えてしまった。
顔を上げると彼が私を見て笑っていた。
俺ら家族みたいじゃね。
同じことを考えていたのが嬉しくて照れくさかった。
ところにより雨。
ところにより晴。