月に願いを
「ねぇ、月が綺麗ですね」
「あぁ。其方と一緒に見るからだろうな」
あなたと寄り添い合うこの夜がいつまでも
続きますように…。美しい月に願いを込めて。
あの頃の私へ
夢は叶いませんでした。
たまに、自分の進んだ道はこれでよかったのかわからなくなる時があります。
立派な大人になれなくてごめんなさい。
ただ、諦めなければ自分だけの最良な道は見つかるし
かけがえのない友達に出会うことはできる。
そして、学校だけが世界のすべてではない
そこで会う人たちがすべてではない
世界は、あなたが思うよりも広い。
これだけは伝えておきたいです。
無理のないように人生を歩んでください。
また明日
あなたにまた明日って言えたあの日々が幸せだった
今もあの頃に戻りたい。今日もまた叶わない夢を見る
風に身をまかせ
「ねぇ、私も箒で飛んでみたいなあ」
人間界の下宿先で一緒に暮らす少女は、はしゃぐように呟いた。
今では寝る前の楽しみになっているおしゃべりで、魔法界での学校生活について話していた。もちろん授業では箒を使って飛ぶカリキュラムも存在していた。そんな話を彼女は楽しげに聞いていた。
そして、冒頭の台詞に戻る。
「風に身をまかせて飛べたら気持ちよさそうだなって」
わくわくしながら話す彼女はなんだかかわいい。
「飛ぶのは、こっちにある自転車みたいに練習が必要になるわよ。だから、お試しぐらいなら私の後ろに乗って飛んでみない?」
「え、いいの⁉︎嬉しい」
やったー!とはしゃぐ彼女に
「でも、昼間だと騒がれちゃうから次の満月の夜にね」
ツッコミを入れる私の声も、彼女ほどではなくても弾んでいた。
耳を澄ますと
聞こえてくるのは柔らかな歌声。
いつまでも聴いていたい温かい子守り唄。
私は、この人を知っている。
でも…顔が思い出せない。
小さい頃の友達だろうか?
「あなたは、誰?」
名前を聞きたいのに、だんだん意識と歌声は
離れていく。
代わりに、聞き慣れたスマホのアラーム音が
大きくなっていった。
目が覚めたらいつも通りの部屋。
クローゼットに机、テレビ、ベッドサイドには
お気に入りの西洋人形。
「あの夢は、一体何だったんだろう。ただ心地は良かったな」
西洋人形の頭を撫で、着替える準備を始めた。
私の後ろで、西洋人形が少し微笑んだことに気付くことはなかった。