勿忘草(わすれなぐさ)
目を覚ましたら、自分の街に戻っていた。
近くにあった時計の時刻は、私が異世界に飛ばされてから30分ほどしか経っていなかった。
今までの出来事が、まるで嘘みたいだった。
でも、元の世界に帰る前に彼が私の左薬指に咲かせた指輪には、勿忘草が施されていた。左指に残るそれだけが異世界にいた真実を物語っていた。
勿忘草の花言葉は、「真実の愛」「私を忘れないで」
こんなことされて、彼を忘れて他の人と添い遂げるだなんてできない。最後までずるい。
「忘れるわけないじゃない…私だって別れたくなかった」
とめどなく溢れる想いは誰にも止めることはできなかった。
I LOVE…
溢れるくらいの想いを貴方に
こんな夢を見た
何度目かの悲しくて温かい夢を見た。
私の隣には、笑顔で笑い合いながら
話をしていた女性がいた。
一緒にいて柔らかな日差しに照らされてる
温かい気持ちになる。きっと私の大切な人なんだろう。
でも、笑っているのはわかるのに
誰なのかはわからない。
私はこの人を知るはずがないのに。
私の今大切な人は、主様なのに。
どうして貴女といると温かいの?
貴女は、一体誰なの?
目を覚ますと、いつも通りの部屋。
私の主である彼は、まだ戻ってきていない。
私と主様は、夜の闇でしか生きられないのに
なぜ私は人間のような夢を見たのだろう?
「私は…何かを忘れているの?主様に愛されているのに、今幸せなのに何で?」
今の幸せと夢の温かさの狭間で、私は途方に暮れてしまった。
特別な夜
10月31日。人の世界と人ならざる者の世界の境目がなくなる夜。
私は、運命の再会を果たした。
会いたくて会いたくて仕方がなかった。
生きる世界が違う私たち。
せめて今夜だけは、2人だけでいさせて
紅い月の輝く特別な夜に、永遠の愛を囁いた
閉ざされた日記
「よいしょっ…と。おばあちゃん、だいぶ片付いてきたね」
部屋の棚に最後の1つの物を入れて、祖母に話しかけた。
「そうだね。来てくれたおかげで早く掃除が終わったね。ありがとう」
嬉しそうに笑う祖母を見て、私も嬉しくなる。
私と祖母が掃除していた部屋は、旅行が趣味の祖父母が色々な地域から購入した思い出の品でいっぱいだった。
日本のくまの木彫りや日本人形もあれば、海外で手に入れた絨毯や綺麗なブローチがあった。
地元にいながら色々な世界を旅した気分に浸れるのは、この部屋のおかげだった。
ふと、さっき片付けた棚に目をやると鍵付きの日記帳があるのに気づいた。
「おばあちゃん、こんなところに鍵付きの日記帳てあったんだね。これおばあちゃんが書いていたの?」
「ああ、この日記帳はねずっと昔に大切な友人からもらったのよ。私が困ったら、開いてねって」
不思議な模様が描かれた表紙を、祖母は優しい眼差しで見つめていた。きっと大切なものなんだろう。
「そうか、おばあちゃんにとってお守りみたいな日記帳なんだね。」
閉ざされた日記帳には何が書いてあるかは、祖母とその友人にしかわからない。けれど、2人にとってかけがえのないものであることが伝わってきた。