みかん
太陽の輝きを閉じ込めた甘いみかん。
口いっぱいに爽やかに広がっていく。
太陽を最後に直接浴びたのはいつだったろうか?
人々がガラスケースに包まれても、自然の贈り物だけは変わらずに存在し続けている。
手ぶくろ
20xx年。人類は1人1人ガラスケースの中で生きる法律ができた。
あらゆる対人での事故や事件を防ぐために生み出された法律と噂されていた。
法律ができた当時、私は20代後半だったが私より上の年代は反対していた人が多かったことを覚えている。
だが反対も虚しく、全人類ガラスケースに閉じ込められた。
人間恐ろしいもので、そんな生活を何十年も過ごしていれば人の温もりや心通った関わりをほとんど忘れてしまうのだ。
そんな中で私に人の温もりを微かに思い出させてくれるのはかつて家族に編んでもらった手ぶくろだ。
お店に売られていない私だけに作られた手ぶくろ。
スイートピーが刺繍されたこれだけが、記憶の中の温もりを思い出させてくれる。
イルミネーション
冬の夜は不思議だ。
キラキラ輝くイルミネーションがあるから、いつもの街が何倍も特別に見える。
1人で見ても、大好きな誰かと見ても魔法にかけられたみたいにわくわくするのだ。
逆さま
よく晴れた日は海や湖に、街が逆さまに映る。
鏡の向こうには似て非なる世界が広がっていると考えるとどうしようもなくときめくのだ。
見知らぬ誰かに想いを馳せて。
夢と現実
私は、誰かと一緒にいるんだろう。
横に並び、笑い合っている。
でも、顔がよく見えない
声も聞こえなくなっていく
夢はそこで終わった。
目が覚めるといつも通りの朝
温かくもどうしようもない虚無感に襲われる
いつも夢に出てくる誰かを思い出そうとすると
毎回ひどい頭痛に襲われる
まるで、思い出してはいけないというように
でもいつまでも考えてはいられない
今日という現実を生きていかなくては
胸の奥に小さなしこりを残したまま
布団から旅立った