春爛漫
満開の桜を見上げるとなんとも尊い気持ちになる。
何度目の春なのか数え切れないが、春に得た思い出は
いつまでも色褪せない宝物だ。
春の日差しの温かさにうつらうつらしながら物思いに耽っていた。
柔らかなひだまりに安心感を覚えるのは、きっと大切な人たちの心づかいや優しさと似ているからかもしれない。
ひとひらの桜の花びらは、そっと撫でるように落ちていった。
それでいい
世の中の同年代の人やかつての学友たちは
どんどん先に進んでいると聞いた。
でも私は?卒業してから何か変わったのだろうか。
子どもの頃に描いていた立派な大人になれた気がしない。悩んでいるうちに、焦りは苦しみに変わってしまった。
「あのね、○○は仕事が大変でも、最後にはちゃんと頑張れてるじゃないの。自分のペースで進んでいけばそれでいいんだよ。」
大切な人がくれた言葉は、気づかせてくれた。
周りよりも、過去の自分と比べてどうなっているか、昨日よりも1歩進めていればそれでいいのだと。
1つだけ
「この屋敷かな?」
目の前に広がるのは、大きな洋風のお屋敷。
知り合いから、町の奥の屋敷に1つだけ何でも願いを叶えてくれる魔法使いがいると聞いた
呼び鈴を鳴らし、しばらく待つ。数分もたたぬうちに黒いローブを纏った人物が現れた
「あなたがお客様かい?」
「そうです」
「まあここで話すのも冷え込むでしょう?中におあがりなさい」
彼女に続いて屋敷に入っていった。だが、私は知らない。願い事が理由で最悪な結末になるなんて…
「それで?あなたの願いは?」
不敵な笑みで尋ねる魔法使い。
「1つ確認なのですが、何でも1つだけ叶えてくださるのでしょうか?」
「もちろん。私にできないことはない」
そう言われ、私は決意して伝えた
「この世界を、争いや憎しみのない世界にしてください」
振り返れば、世界は負の感情で溢れていた。リアルでも、ネットの中でも。そんな世界を変えたかったのだ
「よかろう。お前の願いを受け止めた」
私は安堵した。だが、それはすぐに終わった
耐えがたい激痛が私を襲ったのだ
「待ってください、何で私が…ぁ…」
「…っ、争いをなくすには人間を滅亡させる。こうするしかないのだよ」
物憂げな目で何かをつぶやく魔法使い。
なんて言っているのかはわからない
最期に私の意識は途絶えた
ただ1つだけの願いの代償は、重すぎた。
夢が醒める前に
とあるアイドルが解散する夢を見た。
でもその夢は、解散だけで終わらない悪夢だった。
存在自体最初からいなかった扱いをされたのだ。
青い鳥のSNSや検索サイトを調べても見つからなかった。
私の記憶だけ残して、ぽっかり消えてしまった
夢が醒める前に、もっと大好きと伝えていればよかった
ずっと隣で
ずっと隣で存在していることが、本当に幸せだったんだ
幸せに気づくのは、失ってからだった。
私も、周りも、SNSも闇に包まれた