もうどれくらいの間この階段を登っているのだろう。
妻と子供はどうなっているだろうか。
私が居ないことを嘆いているのか、もしかしたらもう忘れているのか。
先に逝ってしまったのか。
仕事はどうなった?
さすがにクビだろう。会社自体がなくなっているかもしれないな。
ああ、こんなこと考えても仕方がないな。だって両手じゃあ数えきれないし、頭ですら覚えていられないし。
試しに今のところからいちにいさん…と数えてみる。
きゅうじゅう、じゅういち、じゅうに
12まで数えて面倒臭くなったのでやめた。
いつもこうだ。最後まで成し遂げられない、バカなおっさん。取り柄が無さすぎる。
そんな自己嫌悪に陥っていたら、壁にぶつかった。
はじめての変化だった。よく見るとドアがあって、半開きになっていた。
光が差し込んでいた。
私は、やっとついたのだ!とわくわくした気持ちで開けた。
そこにはスタッフらしき人がいた。
眠そうな目を擦りながら口を開いた。
おつかれさまです。ここは第一地点です。
スタッフが開けた扉には、先ほどと同じような暗い階段が永遠と続いていた。
目の前で、人が落ちてった。
君がいたのに、追われて落ちた。
君は、助けられなかったと涙を流した。
そりゃそうだ。君の友達だったんだもんね。
唯一無二なんてくだらないこと君は言って、落ちたあいつも特別だってふんぞり返って。
僕らなんて二の次で君はあいつに走ってって。
ほんとばかみたいだった。
でも、君とあいつがばかしてるのが羨ましかったんだよ。
だから、協力して地面に叩きつけた。普段は敵のあの子もこの子もみんななかよく協力して。
最後に笑うのは僕たちなんだ!
だからさ、君も戻ってきてなかまに入ろう。
僕ら、君がいなかったら口喧嘩ばっかりなんだよ。
まえみたいに仲取り持ってよ。
おねがいだから…
おねがい。消えていかないで。
眠りにつく前に何処か遠くの夢を見る。
異国の地でも、異星の地でも、何処かについたならラッキーだ。
淡い希望なんて、とっくの昔に暗闇に溶けてしまったけど、最期に手紙をかいていくよ。
拝啓地球の君。いつか話そうと思っていた君。
もし会ったとしても何十年後何百年後だけど、どうか変わらず居て下さい。
コールドスリープから僕が目覚めるまで。