終花

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10/20/2023, 8:45:33 AM

『すれ違い』

絡んだ糸はほどけてしまった。
美しく結んであげないといけないようね。
絡んだだけでは駄目なようね。

綻ぶ糸屑にふっと息を吹き掛けるのよ。
殿方との記憶の欠片が舞っているわ。
そこの純真無垢な乙女よ。糸を結ぶまで白く居るのよ。

すれ違いざまに振向いてみなさい。時々糸が見える。
ほどけないように固く結んで、美しく飾るのさ。
絡まってしまったらそれで終わりよ。


さぁ、乙女よ。

10/18/2023, 12:44:10 PM

『秋晴れ』

東雲の薄い空に見えるは、きらり光る金星。
青い空に見えるは、すーっと伸びる飛行機雲。
黄味掛かった空に見えるは、更に黄色い銀杏の葉。
濃紺の空に見えるは、それでも明るい白い眉月。

雲一つ無い青空。
肺を満たす澄んだ空気。
頬を舐む軽い風。
からりと音を立てる紅葉。

秋に恋するあたしだった。

10/17/2023, 10:55:44 AM

『忘れたくても忘れられない』

まるで蒲公英の様な、朝顔の様な、銀杏の様な、椿の様な。そんな人です。
まるで蝶の様な、金魚の様な、鈴虫の様な、鶴の様な。そんな人です。

花の如く可憐な人です。
風鈴の様に凛とした人です。
夕陽みたいに儚い人です。
猫と同じ気まぐれな人です。

貴女の気まぐれによく振り回されましたね。
貴女、ここまで狂わせておいて、去って行くのですね。
貴女は最後まで美しいのですね。

嗚呼、視界が歪む。

忘れたくても忘れらないのは、そうだ、
貴女が存在していた事。



それだけです。

10/16/2023, 2:19:52 PM

『やわらかな光』

私は散り行く萎れた花。
私は枯れ行く褐色の葉。
私は沈み行く腐った実。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

春の光は、依然やわらかでした。朝起きれば、天からの誘いと見紛う程に。多少安堵してしまう程に。それはそれは優しい物でした。

「光が優しいわ」

 口元が緩む。窓辺で白い太陽に手をかざし、暖かさを胸にしまい込む。この光もあと何回見られるのでしょう。もう、両手で数えられる程かしら。

 ちろちろと流るる透明な水路の水を見下す。
 あと少しで満開になる桜と同じ目線に立つ。
 可愛らしい紫の色をした菫の花に恋をする。

 花への愛を口遊む。貴女は私の憧れですと。貴女さえ居れば良い。囁く様に口遊む。心からの愛の言葉。他の誰でも無い、花々だけへの言葉です。
 明日も生きているのでしょうか。もう、糸を切って下さっても良いのですよ。満開の桜を愛でたら、私はもう良いのです。

「神様仏様。私なんかより、生きたいと希う者達を生かしてやって下さい。……私はもう、良いのですよ」

 口が滑る。
 こんな物、夫には聞かせられないわ。小さな笑いが溢れる。こんな言葉を聞いたら、泣いて懇願されるでしょう。「死なないでくれ」と。
 毎夜々々聞き飽きたわ。もう軽くさえ聞こえてしまう。貴方はそうでは無いんでしょうけどね。ごめんなさい。冷ややかな妻で。

 烏の飛び行く茜色の空を眺む。
 小雨の降る小夜中に涙を流す。
 雫の弾ける音を聴き夢に沈む。

「あら、満ちた」

 そよ風と光に起こされ、開けられた窓枠の向こうに、見えるは、霞む空と良く似合う、可愛い、桜。
 呼吸の仕方を忘れてしまう。涙が溢れる。嗚呼、もう、そろそろ。

「嗚呼、楽しかった」

 掠れ声。
 紋白蝶が迷い込んで来た。早くお帰り。声にならぬ声を掛ける。やわらかな光に包まれる。これは空想無しの現実。神様は優しいのよ。

 来世は春の景色になりたいわ。

 蝶や、私の最後の願いと共に飛んでおくれ。
 ふわり窓辺から飛び立つのです。
 春の光はやわらかでした。天からの光はやわらかでした。眠りへ誘う光はやわらかでした。そして私は舞うのです。

 

ある春の日、桜が空に満ちた日、花の香りの飽和する風に、白く暖かくやわらかな光に、花弁が綻んだ。

10/14/2023, 12:46:37 PM

『高く高く』

高く高く、紙飛行機は飛んで行く。
しゅーっと空を切り裂き、白い軌道を描いた。
見えなくなるまで見つめたかったが、地面を滑った。

高く高く、風船は飛んで行く。
カラフルな風船は、人々の手を離れて浮かんでいった。
見えなくなるまで幸せを願っていたが、一つだけ割れてしまった。


高く高く、晴天は突き抜く。
空晴るる丘の上、新緑の草花の香りに酔う。
季節は変わるなと希うが、自然とは無情である。
はらり舞う花弁に思いを寄せた。

高く高く、一輪の花は昇って行く。
風に靡いたまま、どこか遠くへ霞んでしまう。
部屋に染付く甘い匂いだけは、何時までも憶えている。
声はもう、忘れてしまった。



貴女の可憐な姿は、高く高く、
どこ迄でも続く柔らかな蒼天に散って行く。

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